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隷属なき道―AIとの競争に勝つ ベーシックインカムと一日三時間労働 [著]ルトガー・ブレグマン

[評者]加藤出 (東短リサーチチーフエコノミスト)

[掲載]2017年07月30日

[ジャンル]政治 経済 社会

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■自由に使える金が給付されたら

 もし政府が国民に無条件で一律に生活に必要な資金を支給し続ける制度を開始したら、あなたは今後も働き続けるだろうか?
 そういった制度をベーシックインカムと呼ぶ。既存の生活保護、失業対策、公的年金などの社会福祉をそれに統合するので、役所も大幅に整理縮小できる。
 本書が同制度を主張する背景には、現代は過去最大の経済的繁栄を得ているのに、鬱病(うつびょう)が増え、人々は過去最大の不幸に苦しんでいるという問題意識がある。また、AI(人工知能)が人々の仕事を奪う恐れも意識されている。
 同制度の批判者は人々が怠惰になると懸念しているが、著者は世界各地で貧困層にフリーマネー(自由に使えるお金)が給付された実験を紹介している。給付金は驚くほど前向きな目的に使われ、学校に通ったり、小規模な商売を始めたりする事例が多々あった。
 1970年代のカナダのベーシックインカムの実験では、労働時間の減少は僅(わず)かで、メンタルヘルスの悩みが減り、入院期間が8・5%も短くなった。財政の医療費負担を減らし得る。
 もっとも、そういった実験は期間限定であり、給付が無期限となったら人々の心理はどうなるのか?という疑問も湧く。また、財源の確保も重要な問題だ。
 AIが失業を増やすと考える米IT企業経営者は多く、彼らも最近ベーシックインカムを提唱している。その場合、AIで稼ぐ企業が巨額の納税を覚悟する必要があるだろう。だが、現在多くの米大手IT企業が税金回避で悪名高い状態なのは気になるところだ。
 ベーシックインカムの実現には課題が多々あると思われる。しかし、著者の次のメッセージは重要だ。「思い出そう。かつて、奴隷制度の廃止、女性の選挙権、同性婚の容認を求めた人々が狂人と見なされたことを」。世界的に関心が高まっているベーシックインカムの議論を考える上で、本書は貴重な一冊といえる。
    ◇
 Rutger Bregman 88年生まれ。オランダ出身の歴史家、ジャーナリスト。『進歩の歴史』(未邦訳)など。

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