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土偶界へようこそ-縄文の美の宇宙 [著]譽田亜紀子

[評者]野矢茂樹(東大教授)

[掲載]2017年08月06日

[ジャンル]歴史 人文

表紙画像

■造形美、かきたてる想像力

 縄文のビーナスって知ってますか? 国宝土偶の第一号である。知らないという人、こっちにいらっしゃい。いや、実は私も有名な遮光器土偶ぐらいしか知らなかった。この本の受け売りでお教えすると、土偶というのは縄文時代、およそ1万5千年前から2400年前まで続いたとされる時代に作られた、人の形をした土の焼き物のこと。何のために作られたかはよく分かっていない。でも、なんらかの仕方で祈りに関わっていたことはまちがいない。そして、その多くが女性である。
 さて、そんなことは知ってらあという人、そして縄文のビーナスも知ってるよという人、そういう人にこそ言いたい。あなた、縄文のビーナスのお尻、まじまじと見たことありますか? 土偶を見るとき、たいてい正面に注目するだろう。しかしこの本は、正面だけでなく、右横、左横、背中、そしてときには上からやアップを掲載している。一ページを使って、どーんと縄文のビーナスの後ろ姿がある。それが、もう、実にいいケ……形態をしているのである。
 縄文の女神と呼ばれる土偶もあるが、これなど横から見てみないとその造形のすごさは伝わらない。どっしりした下半身から、前に突き出された上半身がすっと上に伸びている。まるで稲光のような、エッジの効いた形に心底ほれぼれする。
 本書にはそんな写真が満載である。だが、いま紹介した国宝級の造形のすばらしさは、この本が伝える土偶の魅力の半分にすぎない。著者は、絶対国宝にならない級の土偶たちに愛情を注ぐ。例えば「なで肩の土偶」と題された土偶がある。鼻がにゅっと突き出て、ちょっと左下の方を見ている。肩からにょきっとハの字形に腕が出て、おっぱいがぽこっぽこっと出っ張って、なんともぞんざいな作りである。だが、そのぞんざいさが、無言の何かを伝えてくる。力のある役者が舞台に立つとその空間が引き締まる、そんな雰囲気さえある。他にも、なんだかもっさりしてたり、ぽやあとしていたり、ぎょろっとしてたり、野放図だったり、でへへだったり。見飽きない。
 真上を見ている土偶がある。口をぽっと開け、あどけない表情で。なぜ、何を、見上げているのだろう。著者は、胸の前で持ったときに土偶が話しかけてくるようにではないか、と想像する。この想像力が、学術書にはない魅力になっている。誕生、死、病気、食料、災害、こうした私たちにはどうしようもない力と向き合い、祈り、その願いを土偶にこめた。そんな、縄文という時間がそこに露出している。私の中で、ふるふると共振するものがある。
    ◇
 こんだ・あきこ 75年、岐阜県生まれ。京都女子大卒。フリーライター。東京新聞と中日新聞にコラム「かわいい古代」連載中。『ときめく縄文図鑑』『土偶のリアル』『知られざる縄文ライフ』。

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