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歴史の逆襲-21世紀の覇権、経済格差、大量移民、地政学の構図 [著]ジェニファー・ウェルシュ

[評者]立野純二(本社論説主幹代理)

[掲載]2017年08月06日

[ジャンル]歴史 政治

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■市民の奮起で不平等の是正を

 ポスト冷戦の現代史は、「民主主義」の激しい盛衰の物語といっていい。
 冷戦の終結と共に、社会理念の進化も終わった——そんな言説が、かつて米欧で脚光を浴びた。
 『歴史の終わり』。米国の歴史家フランシス・フクヤマ氏の論文である。自由民主主義こそ、人類の最終的な統治形態として普遍化される……はずだった。
 あれから四半世紀以上たった今、民主主義は荒涼たる惨状をさらしている。
 西側と共生するはずだったロシアは今や「プーチン帝政」の様相だ。新興の民主国だったトルコやタイは強権化し、「アラブの春」を経た中東には反動の圧制と戦乱が広がる。
 何より、米欧自身の民主政治が揺らいでいる。扇動的なトランプ米大統領やフランスのルペン氏が、プーチン氏との関係強化を探ってきたのは象徴的だ。
 人権尊重や平和共存といった世界の夢は遠ざかり、先進国の排外的なポピュリズムと、中国やロシア流の自由なき安定統治が併存する混沌(こんとん)の時代である。
 歴史は終わるどころか、再び戻ってきた。その仮説に立つカナダ人学者の著者が今後の指針とみるのは、冷戦期の米戦略家ジョージ・ケナン氏の勧告である。
 ソ連に対抗する最高の手段は、軍事力ではなく、自らの社会制度を最善に高めることだ——。自由民主主義の脆弱(ぜいじゃく)さを予見したうえでの結論だったという。
 戦争に勝者はいない。それが20世紀の教訓だ。ロシアや中国が前時代的な拡張主義に走るとしても、軍事的対決はありえない。足元の民主主義の研鑽(けんさん)こそ最善の安全保障という考えは、確かに今も卓見だろう。
 内なる民主主義を立て直すには、不平等を是正するほかないと著者は説く。政治の選択を正す市民の力を信じ、奮起を促している。
 冷戦を制した米欧の未来を開く処方箋(せん)が、かつて社会主義の看板だった平等の実現ならば、それこそ皮肉な歴史の逆襲ではないか。
    ◇
 Jennifer Welsh カナダ出身。国際政治学者。欧州大学院教授。専門は人道的介入を中心にした国際関係論。

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