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ほじくりストリートビュー [著]能町みね子

[評者]宮田珠己(エッセイスト)

[掲載]2017年08月06日

[ジャンル]人文 アート・ファッション・芸能

表紙画像

■言葉にできない気になる風景

 観光地でもなんでもない街角でふと、あ、この場所いい、と思うことがある。それは必ずしも一般に美しいとされる景色とは限らない。
 能町みね子さんが地図を細かく眺めて「ほじくり」だす風景も、ふつうとはちょっとちがっている。
 大都会のまんなかに忽然(こつぜん)とあらわれる住宅密集地、人がいなくなったあとの地球のような立体交差、圧迫感のある細い路地、駅のホームの下にあるジャングル、ものすごい傾斜の住宅地など、雑誌の旅特集や散歩本では取り上げられることのない、どちらかというと地味で異形で殺風景ですらあるスポットばかり。
 そんなマイナーな風景を
「トンネルと階段と地下鉄が見える絶景スポット」
「殺伐とした私好みの風景」
「この異次元感は貴重」
「まるで死後にでも見る世界のよう」
と能町さんは絶賛する。
 言葉だけ見ると、ちっとも褒めてないようだが、彼女のなかでは最大限のリスペクトになっているのが面白い。ほかにも「違和感」「唐突さ」「迷路のよう」など、彼女の基準は昨今の絶景ブームとは反対のところにある。
 そうした態度は、見方によっては、退屈な日常を乗り切るためのこじつけに思えるかもしれない。
 だが、既成の文脈にとらわれず、世界をいま一度ポジティブにとらえなおそうとしているところは、かつて国木田独歩が『武蔵野』で郊外を愛(め)で、坂口安吾が『日本文化私観』でドライアイス工場を美しいと書き、赤瀬川原平が『超芸術トマソン』で路上に芸術を見いだしたのと同じ感受性によるものと理解するほうがしっくりくる。
 誰にでも言葉にできないまま気になっている風景がある。たぶんこの本が「ほじく」っているのは、そうした普段は心の片隅で忘れられている人それぞれの世界とのつながり方、のような何かである。
    ◇
 のうまち・みねこ 79年生まれ。漫画家・文筆家。著書に『言葉尻とらえ隊』『ときめかない日記』『逃北』など。

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