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ライト兄弟―イノベーション・マインドの力 [著]デヴィッド・マカルー

[評者]佐倉統(東京大学大学院情報学環長・科学技術社会論)

[掲載]2017年08月13日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■発明には「がまん」が必要なのだ

 この本を読まずしてイノベーションを語るなかれ。人類初の動力飛行に成功したライト兄弟の本格的な伝記である。かの有名な兄弟のこと、伝記はたくさんあるだろうと思いきや、日本語では子供向けのものばかりで、大人も読めるものはほとんどないようだ。意外。
 さて、その道のりは、とにかく失敗、失敗、また失敗である。不具合に直面した兄弟は、細心の探究心で原因を突き止め、驚異的な忍耐力で改善し、粘り強く次の試行をおこなう。それでもまたうまくいかない。それを兄弟は驚異的な忍耐力で(以下繰り返し)。
 歩みは遅々として進まない。とにかく時間がかかる。二人が動力飛行を志したのをいつからとするかにもよるが、成功まで、ざっと5年ないし10年かかっている。発明とは、これぐらいの時間を要するものなのだろう。この年数を「がまん」できない人には、イノベーションという言葉を口にしてほしくない。
 また、金儲(もう)けにもつながらない。兄弟はそれなりの金額をかせいだが、大富豪になったわけではない。弟のオーヴィルは、「目的が金儲けにあったなら、もう少し見込みがありそうなものに挑戦していた」と、しばしば言っていたそうだ。
 兄のウィルバーは、常に、飛行前の点検に2〜3時間かけていた。そしてわずかでも不具合を見つけると、躊躇(ちゅうちょ)せず飛行を中止した。観衆が何万人待っていようが、お偉方が見ていようが、断固として中止した。
 どうも彼は、事故は必ず起こるものだと思っていた節がある。けれども、最大限の注意を払っていれば事故の確率を最小に抑えることはできる、抑えなければこの発明は世の中に受け入れられないという信念も合わせもっていたようだ。
 超有名人になってもそれ以前と何も変わらなかったとか。読書家で古典の知識が膨大だったとか。今だからこそ、この兄弟から学ぶべきことがたくさんありそうだ。翻訳もすばらしい。
    ◇
 David McCullough 33年生まれ。作家、歴史家。ピュリツァー賞を2度受賞。著書に『海と海をつなぐ道』など。

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