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血のいろの降る雪―木原孝一アンソロジー [著]木原孝一 [編]山下洪文

[評者]椹木野衣 (美術評論家)

[掲載]2017年08月13日

[ジャンル]文芸

表紙画像

 22歳の時、初の詩集を北園克衛に託し建築技師として戦時下の硫黄島に渡った木原は1945年2月、病のため内地に帰還した。翌3月、硫黄島守備隊は玉砕、数少ない生き残りとなった。戦後は雑誌「詩学」編集の傍ら鮎川信夫、田村隆一らと詩誌「荒地」に参加するも、詩人としては未知の存在に追いやられた。
 木原はなぜ忘却されたのか。その詩作は、戦争で死んでいった近親者や仲間たちへの追悼、というよりも対話からなっている。おのずと詩は幽霊との一問一答のようになる。だからこそ戦後は木原のような詩の言葉を忘れる必要があった。そうでないと「日常」を首尾よく仮構できなかった。生者と同じ次元で幽霊が跋扈(ばっこ)していては新しい生活など成り立たない。
 「無名戦士(硫黄島)」は、この詩人が集大成と位置付けた未完の小説だが、今回が初の公開となる。21世紀の今、忘れられた詩人の言葉で見知らぬ硫黄島がようやく蘇(よみがえ)る。

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