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明治乙女物語 [著]滝沢志郎/政略結婚 [著]高殿円

[評者]斎藤美奈子(文芸評論家)

[掲載]2017年08月20日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■理不尽と闘った近代女性たち

 夏休みも残り少なくなったけど、中学生、高校生のみなさんは何か本、読みました? 
 少しだけ背伸びして、日本の近代に取材した歴史小説はどうかしら。あ、歴史小説といってもね、主人公はうら若き乙女だし、史実をからめながらもストーリーは波瀾(はらん)万丈。エキサイティングです、かなり。
 滝沢志郎『明治乙女物語』の舞台は明治20年代の高等師範学校女子部(女高師)だ。
 なんたって鹿鳴館の時代。女高師の講堂でも初代文部大臣・森有礼が主催する舞踏会が開かれていた。女高師の生徒たちには、欧化政策の一端を担うことが期待されていたわけだね。とはいえ、こういう極端な欧化政策が気に入らない国粋主義者たちもいるわけで、その日の舞踏会でも、まさかの爆弾テロ未遂事件が起こる。危機一髪で爆発を食い止めたのは女高師3年の野原咲だった。1年後輩の駒井夏は颯爽(さっそう)とした咲に憧れていたが、次は鹿鳴館を標的にするとの犯行予告が出て……。
 松本清張賞受賞作だからミステリーの要素もあるけれど、この小説のキモはむしろ、明治の男社会を相手にした咲と夏の戦いだ。伊藤博文のエロジジイぶり、先取的な思想の持ち主とされる森有礼の意外な暗部。ここに謎の人力車夫(ちょっとカッコイイのよ、この人が)や唐人お吉までからみ、物語は衝撃的なクライマックスに向かう。
 一方、高殿円『政略結婚』は幕末から昭和までの時代を3人の女性と1枚の九谷焼の大皿に託して描いた大河ロマンだ。3編の主人公は世が世なら「お姫さま」だったはずの人たちで、じゃあ典雅な物語が展開するかと思いきや、さにあらず。
 加賀藩主の娘に生まれた前田勇は加賀の支藩に嫁ぐも長く子宝に恵まれず、家の存続のために奔走する。明治期にカナダから帰国した子爵家の娘・前田万里子は17歳で婚約するも、おりからの第一次大戦で結婚は延期につぐ延期。自分らしい生き方を求めて格闘する。そして昭和恐慌で全財産を失った伯爵家の娘・深草花音子は10歳にしてレビュー小屋の女優となり、復讐(ふくしゅう)を誓う母とともに軍国主義の時代を走りきるのだ。
 『明治乙女物語』は女性の教育の機会と社会進出、『政略結婚』は家と結婚。それぞれの時代背景をていねいに描きつつ、2冊から浮かび上がるのは女性を縛る見えない力と差別の温床ともいうべき階級の問題だ。女はどんだけ理不尽な思いをしてきたかって話よね。
 それでも彼女たちはめげずによく戦った。フィクションだけど描写はリアル。ほんとの戦闘美少女は、こういう人たちのことをいうのだと思うわよ。
    ◇
 たきざわ・しろう 77年、島根県生まれ。2017年、本作で松本清張賞を受け作家デビュー▽たかどの・まどか 76年、兵庫県生まれ。著書に「トッカン」シリーズなど。13年、エキナカ書店大賞。

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