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分解するイギリス―民主主義モデルの漂流 [著]近藤康史

[評者]加藤出 (東短リサーチチーフエコノミスト)

[掲載]2017年08月20日

[ジャンル]政治 社会

表紙画像

■「多数決型」の無理が生んだ混沌

 イギリスのEU(欧州連合)離脱を巡る議論は依然としてカオス(混沌〈こんとん〉)の中にある。今月15日、英政府は離脱後の税関での混乱を回避する案を発表したが、EU議会幹部は「ファンタジーだ」と一笑に付した。
 英政界内での非難の応酬も収束しない。虚偽情報で離脱を扇動した主要政治家は刑務所に入るべきだ、と前首相の元スタッフが先日ツイートしたところ、大きな反響が湧き起こった。
 なぜこんな事態になってしまったのか? イギリスは議会制民主主義のモデル(模範)だったはずだ。実際、我が国の近年の政治改革(小選挙区制、「決められる政治」へのシフト、マニフェスト等々)は、同国を参考にしてきたものだ。
 昨年の英国民投票でのEU離脱派の勝利を、世界的なポピュリズム台頭の文脈で解説する見方は一般的に多い。しかし著者は、実はイギリスの民主主義は以前から「分解」し始めていて、そこから「漏れ出し、漂流していた民意」に一挙に着火し、爆発を生じさせたものがEU離脱だった、との解釈を示している。
 イギリスの民主主義は「なるべく多くの人が納得する選択肢」を形成する「コンセンサス型」ではなく、「一人でも多い多数派」の意見をそのまま採用する「多数決型」だ。その方がリーダーシップが安定するという。二大政党制を生む小選挙区制、下院の優越、政府の「執政の優位」等々、制度的パーツは全て多数決型に向くようになっている。
 ところが近年は民意があまりに多様化してしまい、多数決型には無理がある状況が現れた。だがコンセンサス型への転換は難しい。このジレンマが今のカオスにつながったことが分かる。
 時代の変化に伴い民主主義の設計はどう変わるべきか?という問いを本書は提示している。イギリスの政治はモデルではなくなったが、著者が正に指摘するように、日本が学ぶべき材料は多々あるといえる。
    ◇
 こんどう・やすし 73年生まれ。筑波大学教授(比較政治、イギリス政治)。著書に『左派の挑戦』など。

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