書評・最新書評

バイトやめる学校 [著]山下陽光

[評者]宮田珠己(エッセイスト)

[掲載]2017年09月03日

[ジャンル]人文 社会

表紙画像

■働き方を疑う、誠意ある指南書

 「景気がめちゃくちゃ悪くて、世の中で起きることの、ほぼすべて悪い方向に向かっている。そんななかで好きなことで暮らしていくのは難しい。やりたくない仕事をしてはたらきまくって、たまの休みに好きなことやって、金を使いまくるのはあまりにも効率が悪すぎる」
 本書の冒頭はこう始まる。そしてこう続く。
 「心配すんな」
 「何をどうやれば自分で自活して暮らしていけるのか、という理論と実践をギャンギャン紹介していきます」
 いやあ、心強い。働かなきゃ食べていけないから働くけど、本当は会社に行くのがイヤでしょうがない。そんな人は世の中にたくさんいて、私も昔そうだった。
 しかし、では会社を辞めて自分で稼げるかといえば、それは心もとない。
 だからやっぱり明日も会社に行くわけで、このくり返しから脱出できないのは実力のない自分の責任であって、甘ったれたこと言ってんじゃないよと、自分で自分にダメ出しする毎日。
 本書が主張するのは、そんな思考回路そのものを疑うことだ。
 著者の山下さんは「途中でやめる」という人を食ったような名前のファッションブランドを主宰し、作った服をネットでアップすると常に30分で完売するというから、さぞかし儲(もう)かっているのかと思えば、あえて儲けないらしい。
 好きなことをやって徹底的に儲けない。儲からないから資本主義の人が寄ってこない。目指すのは、資本主義が得意でない人の経済圏をつくること。
 「バイトやめる」「途中でやめる」って世間をなめているようだが、本書に流れる哲学は、自分では何も生み出すことなくただモノや金を右から左に動かすだけで金持ちになろうと考えている人より、よほど真っ当に思える。
 自分自身に対してだけでなく、社会に対しても誠意のある働き方の指南書だ。
    ◇
 やました・ひかる 77年生まれ。ハンドメイドファッションブランド「途中でやめる」主宰。福岡在住。

関連記事

ページトップへ戻る