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人口減少時代の土地問題―「所有者不明化」と相続、空き家、制度のゆくえ [著]吉原祥子

[評者]諸富徹(京都大学教授・経済学)

[掲載]2017年09月03日

[ジャンル]社会

表紙画像

■有効利用へ実態解明と問題提起

 きっかけは、外資の森林買い占めだった。北海道庁は土地売買の事前届け出を義務づけ、登記簿上の土地所有者4千人余に通知した。だが、その45%が宛先不明で戻ってくる。こうした土地の「所有者不明化」問題はいまや全国に広がり、面積にして九州を上回る。土地はちゃんと登記され、国や自治体が管理しているはずという著者の思い込みは覆される。「なぜこんなことに」という疑問から、この研究プロジェクトが始まった。
 背後には、土地の相続登記が任意だという事情がある。登記手続きは煩雑で、費用もかかる。しかも、登記しなくても不都合はない。これでは、放置される。世代交代が進めば法定相続人がねずみ算的に増え、所有者の関心は低下し、自分の森林の場所や境界すら分からなくなる。
 これは今、林業の現場で大問題となっている。荒れた森林に手を入れたくとも、所有者が不明で手が付けられないのだ。また、震災復興事業をはじめ全国で様々な事業が、土地の権利関係の確定に膨大な時間と労力を要するため、遅れたり暗礁に乗り上げたりしている。まずは所有者の確定を、次に、基盤となる土地情報システムの整備が急務、と著者は強調する。
 しかし根底には、人口減少で土地需要が縮小し、大都市圏を除いて、もはや地価が上がらないという構造要因がある。土地は有利な資産ではなくなり、登記の必要性は低下した。にもかかわらず、所有者不明で有効活用できない土地・不動産は、今後さらに拡大する見込みだ。
 こうなれば、農林業の集約化や空き家活用によるまちづくりなどが、所有権の壁にぶつかって進まなくなる。本書は「強すぎる所有権」ゆえ、土地・不動産の有効利用が進まない実態を浮かび上がらせた。これは究極的に、「所有権と利用権の分離」というラディカルな思考にもつながっていく重要な問題提起だ。
    ◇
 よしはら・しょうこ 71年生まれ。東京財団研究員兼政策プロデューサー。共著に『自然資本入門』。

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