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帝国と立憲―日中戦争はなぜ防げなかったのか [著]坂野潤治

[評者]齋藤純一(早大教授)

[掲載]2017年09月10日

[ジャンル]歴史

表紙画像

■デモクラシーの役割と課題問う

 本書は、1874年の台湾出兵から1937年の日中全面戦争に至る歴史を、「帝国」対「立憲」という構図のもとに簡明に描き直す。著者によれば、「内に立憲、外に帝国」という二重基準でこの時代を理解するのは誤りであり、立憲が強いときには帝国は抑制され、帝国が伸長するときには立憲は息を潜めた。立憲と帝国は交互に現れたのであり、両者の併存はむしろ例外だった。
 この場合の「帝国」は、中国(満蒙)への膨張をはかる軍拡の政策・行動を指す。対して、「立憲」は、狭義の「立憲主義」(憲法による公権力の制限)には還元されない。明治憲法は統帥権の独立を保障しており、帝国化に抗するためには、「違憲」ではなく「非立憲」の論理立てが必要だった(参照されるのは佐々木惣一ではなく吉野作造の「憲政の本義」である)。この意味での立憲は、国会開設、政党内閣、男子普通選挙を順次実現した政治制度の民主化に加え、軍拡を抑えようとする財政指針もカバーする。
 このように本書は、「日中戦争への道」の歴史理解に修正を迫り、帝国化を阻もうとする努力が、昭和に入ってからも消え去りはしなかった事実に注目を喚起する。
 立憲は帝国化に繰り返し、執拗(しつよう)に立ちはだかった。にもかかわらず、日中戦争はなぜ防げなかったのか。「立憲」と「帝国」の抗争から著者が引きだす歴史の教えはこうである。「デモクラシーが戦争を抑え込み、それゆえにさらに発展するという好循環は、リベラルな政党内閣……の下でしか生じない」
 本書が問いかけるのは、立憲主義を擁護するに加えていまデモクラシーに何が求められるか、である。政府および人民の権力濫用(らんよう)を抑えながら、単なる受け皿ではない、リベラルな議会多数派をどう安定的に組織していくことができるか。「立憲」という課題への再度の取り組みを本書は促す。
    ◇
 ばんの・じゅんじ 37年生まれ。東京大名誉教授。著書に『日本憲政史』『近代日本の国家構想』など。

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