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真ん中の子どもたち [著]温又柔

[評者]斎藤美奈子 (文芸評論家)

[掲載]2017年09月17日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■ややっこしくも爽やかな青春

 〈四歳の私は、世界には二つのことばがあると思っていた。ひとつは、おうちの中だけで喋(しゃべ)ることば。もうひとつが、おうちの外でも通じることば〉
 これが書きだし。
 温又柔『真ん中の子どもたち』は、日本人の父と台湾人の母を持ち、自身は台北で生まれて東京で育った女性(天原琴子19歳。国籍は日本で、あだ名はいつもニコニコしてるという意味のミーミー。発音はミーミーだ)が中国語を学びに上海に留学する物語である。
 えっ、なんか、ややっこしい? そうです、ややこしいんです。しかも、ややこしいのは彼女だけじゃない。上海でともに学ぶ留学生仲間もまたしかり。
 玲玲(リンリン)こと呉嘉玲(ごかれい)は父が台湾人、母が日本人で日本在住。ミーミーと似た境遇だけど、パスポートは「中華民國」、中華人民共和国に入国する際は「台胞証」が必要だ。
 龍舜哉(りゅうしゅんや)の両親は日本に帰化した「元中国人」。祖父は台湾出身。だけど本人は生まれたときから日本国籍で、ちなみに関西人。
 〈ねえ、子どものとき、なんか中国語喋って、って言われなかった?〉〈いたね、そういうこと言うやつ。失礼しちゃうよね〉
 中国語も一応話せるつもりだった彼らはしかし、学校の内外で「南方訛(なま)り」を指摘され、プライドをへし折られるのである。正しい中国語って何だ、母語って何だ、母語があるなら父語はないのか? 彼らの混乱を象徴するように、日本語の本文に、旧漢字の台湾語や簡体字の中国語やローマ字の発音記号が侵入する。
 ぐずぐず悩むミーミー。よく憤慨するリンリン。だけど舜哉は〈ひとはそれぞれやし、それぞれの正しさがある。似たような環境で育った日本人同士だってそうなんやから、国境を越えたらなおさらや〉
 読み終えてみれば爽やかな青春小説。互いのややっこしさを理解することこそ共生への道。多様性の時代の青春はかっこいい。
    ◇
 おん・ゆうじゅう 80年、台北市生まれ。本作で芥川賞候補。『来福の家』『台湾生まれ 日本語育ち』など。

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