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ここから先は何もない [著]山田正紀

[評者]末國善己 (文芸評論家)

[掲載]2017年09月17日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■宇宙が密室、神とは何者か

 多彩なジャンルで活躍する山田正紀の新作は、SF、冒険小説、本格ミステリのエッセンスがすべて楽しめる物語となっている。
 日本の無人探査機が、小惑星パンドラから、約4、5万年前のものと推定される人骨を持ち帰った。この発端は、月面で深紅の宇宙服を着た死体が発見されるジェイムズ・P・ホーガンの名作『星を継ぐもの』を意識しているが、本書は単なるオマージュではない。
 探査機の目的地はジェネシスだったが、なぜかパンドラに変更された。本書は出入り不可能な広大な宇宙空間を密室になぞらえ、そこで探査機のプログラムが書き換えられた謎を描いているのだ。著者は、途中に出入り口がない6・5キロの地下水路から死体が消える『螺旋(スパイラル)』を書いたが、今回の密室はスケールが格段にアップしていて、アリバイ崩しを軸にしたホーガンへの対抗意識もうかがえる。
 それだけでなく『星を継ぐもの』のように、貴重なサンプルを世界中の科学者が調査するストレートな展開にならないのも面白い。
 探査機が集めたサンプルはアメリカに奪われ、沖縄の米軍施設に送られていた。物語は、民間軍事会社を経営する大庭卓、ハッカーの神澤鋭二(えいじ)、解剖医の藤田東子(とうこ)ら一癖ある人物が、日本の政府機関に雇われ、サンプル奪還のため警戒厳重な米軍施設に潜入する迫真の冒険小説として進んでいくのだ。これは、インド奥地の原発に潜入し、爆弾を撤去しようとする男たちを描く著者の代表作『火神(アグニ)を盗め』を彷彿(ほうふつ)させる。
 密室の論理的な解明、米軍との息詰まる攻防は、やがて人類はどこから来てどこへ行くのか、神は存在するのか、そして神とは何者かという形而上(けいじじょう)学的な問題を浮かび上がらせていく。
 著者が、デビュー作『神狩り』から追究しているテーマが、現代日本の社会制度とテクノロジーの枠内で描かれていくので、そのビジョンがより身近に感じられるのではないだろうか。
    ◇
 やまだ・まさき 50年生まれ。作家。74年『神狩り』でデビュー。『最後の敵』『ミステリ・オペラ』など。

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