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乱流のホワイトハウス―トランプvs.オバマ [著]尾形聡彦

[評者]諸富徹(京都大学教授・経済学)

[掲載]2017年09月24日

[ジャンル]政治

表紙画像

■対極の政権運営、中枢から活写

 本書は、米主要メディアとともにホワイトハウス中枢に入り込むことのできた著者が、「大統領の下す決断とは何か」を徹底的に追った、迫真の書だ。
 どこの国でも、公式発表された最高権力者の決定の背後にある事情は、ベールに包まれている。それを著者は一枚一枚、皮を剥ぐように真実に迫っていく。ホワイトハウス内の暗黙の取材ルールを体得し、英語を克服し、最後は度胸で重い扉を一枚一枚開けていく。そうした著者の試行錯誤と、ついに開いた扉の向こうに見えるホワイトハウスの内奥を活写した第2章は、とてもスリリングだ。
 インナーサークルに入り込んだ著者の本領がもっとも発揮された第5章(ロシア疑惑)と第6章(オバマ大統領の広島訪問)は、とくに秀逸だ。日本ではロシア疑惑というと、トランプ政権のスキャンダル的な側面に興味が行きがちだ。
 しかし問題の本質は、米国の大統領選挙結果が外国(ロシア)の介入により左右されたか否かにある。しかも介入を招いたのが現職大統領だとすれば前代未聞であり、米国民主主義の根幹を揺るがす深刻な事態だ。米国での捜査に絡み、「ロシア側で関係者が何人も殺されている、その死者たちの足跡を追うべきだ」とFBI元捜査官が証言するくだりは圧巻だ。この問題の闇の深さを窺(うかが)わせる。
 トランプ政権とは対極のオバマ政権による統治の本質を描いたのが、第6章だ。なぜ、米国内の反対を押し切ってオバマ大統領は広島を訪問したのか。それは、日本に歴史と向き合い、近隣諸国との和解を求めたオバマが、今度は米国が歴史と向き合い、核軍縮への決意を改めて示す、象徴的な機会として広島訪問を位置づけていたからだ。
 著者はこれを、大統領最側近のベン・ローズから引き出す。高い理想主義の一方で、それを周到に実現する卓越した政権運営能力。日本は、そこから何を学ぶことができるだろうか。
    ◇
 おがた・としひこ 69年生まれ。朝日新聞オピニオン編集部次長兼機動特派員としてホワイトハウスを取材。

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