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戦禍に生きた演劇人たち―演出家・八田元夫と「桜隊」の悲劇 [著]堀川惠子

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2017年10月01日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

 演出家八田元夫(1903〜76)の人生を繙(ひもと)きながら、近代日本の新劇の歴史を俯瞰(ふかん)した書である。演劇人がいかに時代の波に翻弄(ほんろう)されたか、八田と同時代人の丸山定夫、三好十郎、先輩にあたる土方与志など多くの劇作家・俳優たちのそれぞれの姿、「舞台」そのものが権力の監視により歪(ゆが)んだ空間と化していく様が具体的に描かれていく。
 1940年の演劇人一斉逮捕での容疑の一例は、日本の親子の情は天皇と臣民の関係だが、舞台で親子が親友のごとく会話をするのは国体の破壊というもの。
 広島への原爆投下の日、丸山を団長とする9人の桜隊(移動劇団)が犠牲になる。その一人、女優の森下彰子と夫・川村禾門(出征)との夫婦愛の描写が感動的だ。一方では村山知義(演出家)が戦時下で一裁判官から聞いた、軍が富士山麓(さんろく)にナチスの強制収容所まがいの施設を作って思想犯の抹殺を考えているといった話は、改めて昭和史上で検証されるべきだ。

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