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動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか [著]フランス・ドゥ・ヴァール/動物になって生きてみた [著]チャールズ・フォスター

[評者]佐倉統(東京大学大学院情報学環長・科学技術社会論)

[掲載]2017年10月08日

[ジャンル]科学・生物

表紙画像

■進化認知学の世界へようこそ

 動物たちは、とても賢い。そんなことわかっているよ、当たり前じゃん、と思った人。逆に、そういうのは非科学的なお話だよね、と思った人。あなたがどちらのタイプであっても、まずはドゥ・ヴァールのこの本を読んでいただきたい。あっと驚くこと請け合いだから。
 もしあなたが前者であれば、あなたが思っている以上に動物たちが賢いことがおわかりいただけるだろう。チンパンジーが先のことを見越して道具を工夫したり、カラスたちがお互いに助け合ったりするのは、今や常識かもしれないけど、ワニも道具を使うし、タコはエサをくれる人とそうでない人を区別できる。イヌの脳活動を調べる研究が始まっているというのも、イヌ好きには興味深いのでは。
 逆にもしあなたが後者であれば、「進化認知学」の世界へようこそ。この本であなたの見方が変わることを祈ります。歴史的に見れば、あなたと同じく動物の知性に批判的な見方が、科学の世界でも長らく主流だった。それが、著者をはじめとする動物行動学者たちの奮闘によって少しずつ状況が変わってきて、今や最先端の花形研究領域だ。日本の研究者も、この科学革命に大きく貢献している。
 ドゥ・ヴァールが強調しているように、動物の知性は、人間の感覚で考えていては正当に評価できない。それぞれの動物が見て感じている世界(環世界〈ウムヴェルト〉)は種ごとに異なるから、それぞれの動物たちの立場から世界を認識しないと、行動の意味は理解できないのである。
 ならばと、その動物たちのように暮らしてみた記録がフォスターの本。アナグマを真似(まね)て山で巣穴を掘って寝泊まりし、カワウソの棲(す)む森で川の中を行き来し、キツネと共にロンドンの裏路地を徘徊(はいかい)して残飯をあさる。そのほかアカシカとアマツバメにも挑戦。なんというか、もうほとんど紙一重の世界である。
 もちろん、いくらがんばっても、世界をキツネと同じように感じとることはできない。しかし、フォスターはこの問題にも詳細な理論的検討を加えていて、ヒトとキツネの感覚器や中枢神経系の仕組みには共通点もあるので、ある程度はキツネになりきれると正当化している。
 残念ながらすべての動物について成功しているとはいえないが、アナグマやキツネは結構いい線行っていると思った。しかし、何をもって「いい線行っている」と判断できるのか? それは是非(ぜひ)みなさんにお考えいただけるとありがたい。
 動物について語りつつ、人間とは何か、他者を知るとはどういうことかを考えさせる二冊。秋の夜長の読書にお薦めだ。
    ◇
 Frans de Waal 48年、オランダ生まれ。ユトレヒト大特別教授。専門は、霊長類の社会的知能研究▽Charles Foster 英オックスフォード大フェロー。ナチュラリストで、獣医師の資格を持つ。

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