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ニュースクール―二〇世紀アメリカのしなやかな反骨者たち [著]紀平英作

[評者]諸富徹(京都大学教授・経済学)

[掲載]2017年10月08日

[ジャンル]歴史

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■欧州の知性とリベラルな磁場

 第1次世界大戦終結直後の1919年、ニューヨーク市に一風変わった学校が産声を上げた。社会人のための、総合的で実践的な人文社会科学の研究教育を掲げたニュースクール(新学院)である。哲学者デューイら、コロンビア大学の看板教授たちが創設に尽力し、彼らのリベラルな精神が吹き込まれた。
 新学院は当初こそ経営的に苦境に陥るが、大胆にカリキュラムと講師陣を入れ替え、軌道に乗った。30〜35年には、社会科学分野における国際水準の業績とされる『社会科学事典』(全15巻)の刊行を成功させ、その学術的な地位を不動のものとした。この事典は米国のみならず欧州の研究者が多数、執筆参加し、31年には経済学者ケインズが訪問講演するなど、新学院は大西洋をまたぐ「知の架け橋」として機能した。
 33年にドイツでナチスが独裁的権力を握ると、欧州から多くの亡命者を教授陣に迎え入れた。新学院が受け入れたのは、経済学者エーミール・レーデラー、同ヤコブ・マルシャック、財政学者ゲルハルト・コルム、政治哲学者レオ・シュトラウス、文化人類学者クロード・レヴィ=ストロースなど錚々(そうそう)たる面々であった。こうして新学院は、欧州の知性をアメリカに移植し、亡命知識人を中心としたコスモポリタン的な知の拠点として発展した。
 新学院の戦後は、2人の批判的知性によって代表される。一人は資本主義経済の負の側面を鋭く指摘した経済学者ロバート・ハイルブローナー、もう一人は全体主義をめぐって根源的な思索を展開した政治哲学者ハンナ・アーレントだ。
 激動の20世紀を舞台に、欧州で迫害を受けた傑出した知性を世界都市ニューヨークに迎え入れ、新たな知を生み出す磁場が創出されたこと自体、一つの奇跡であった。こうした20世紀アメリカのリベラリズムの一断面を見事に切り取って見せた点に、本書の大いなる価値がある。
    ◇
 きひら・えいさく 46年生まれ。京都大名誉教授(近現代世界史)。『歴史としての「アメリカの世紀」』など。

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