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これがすべてを変える―資本主義vs.気候変動(上・下) [著]ナオミ・クライン

[評者]諸富徹(京都大学教授・経済学)

[掲載]2017年10月15日

[ジャンル]経済

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■経済のあり方根本から新しく

 気象庁によれば2016年の世界平均気温は、1891年の統計開始以来、最高記録を3年連続で更新した。日本で頻発する集中豪雨、アメリカを襲う巨大ハリケーン。気候変動の兆候は、いまや誰の目にも明らかだ。
 これまで『ショック・ドクトリン』ほかの著作で新自由主義の弊害を告発してきた著者は、意外にも気候変動問題を避けてきたという。それを変えたのは、この問題が、多くの点で著者のこれまでの闘いと重なることに気づいたからだ。より公平で民主的な社会を築き、多くの人々を貧困から脱却させる。これは、経済のあり方を根本的に変えること、つまり、資本主義経済を問い直すことなのだ。
 例えば、ドイツではいま、エネルギー事業の「再公有化」が進行している。かつて民営化されたエネルギー事業を、市民が取り戻している。ドイツが進める「(原発・火力から再エネへの)エネルギーシフト」は大電力会社ではなく、市営電力公社、協同組合、農民など分散型の主体によって担われ、エネルギー生産の民主化を促している。
 こうした動きを創り出し、産業転換を進めるには、自由放任ではなく、政府が設定する大胆な長期排出削減計画と、再生可能エネルギー固定価格買い取り制度のような政策枠組みが必要だ。また、スマートグリッド(次世代送電網)、軽量軌道鉄道(LRT)、建築物の省エネなど大規模な公共投資計画も必要だ。その財源は、「汚染者負担原則」に基づいて炭素税で賄うのが望ましい。ただし、逆進性に配慮し、手厚い再分配メカニズムを併用する必要がある。
 他方で、新自由主義とは異なる新しい経済モデルの構築など一切必要ないと主張する科学者たちもいる。「地球工学」がそれだ。成層圏に硫酸エアロゾルを注入して太陽光を遮れば、温暖化を止められるという。実際、1991年のフィリピン・ピナツボ火山の噴火で、地球の平均気温は0・5度低下した。これを人工的に起こすというわけだ。しかしこの噴火は、アフリカ南部と南アジアで降雨量の低下と深刻な干ばつを生んだ。地球工学は、別の大惨事を引き起こしうるのだ。結局それは、真の変革を遮る煙幕にすぎない。
 変革の背景にはいつも、強力な社会運動が存在する。化石燃料からの「ダイベストメント(投資撤退)」運動をはじめ世界各地で、著者が「抵抗地帯」と呼ぶ変革の拠点がつくり出されている。それらが積み重ねる一つ一つの勝利が、究極的には新自由主義的世界観を変革し、共同性、共有、市民権といった理念の再生につながる。そう、「これ(気候変動)が、すべてを変える」のだ。
    ◇
 Naomi Klein 70年、カナダ生まれのジャーナリスト、作家、活動家。新自由主義を批判する反グローバリゼーションの著作『ブランドなんか、いらない』『ショック・ドクトリン』など。

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