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煌 [著]志川節子

[評者]末國善己 (文芸評論家)

[掲載]2017年10月15日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■花火がつなぐ六つの連作短編集

 寡作ながら質の高い市井ものを発表している志川節子の新作は、花火を題材にした連作短編集である。
 本書には六作が収録されているが、舞台となる時代は元禄時代の一七〇三年から幕末の一八五五年まで、場所も三河、甲府、長崎、越後長岡、江戸と幅広い。当然ながら主人公も異なっている。一作ごとに設定も登場人物も変え、丹念な時代考証を施し、その土地ならではの風俗や人情を描くのは想像を絶する労力がかかる。このハードルを軽やかに越え、まったくハズレのない連作集を作ったことからも、著者の確かな実力が見て取れるのである。
 特に、甲斐の商家に生まれた則三郎が、江戸で見聞を広めたため進むべき道に悩む「椀(わん)の底」、失明したおりよが、父に学んでいたつまみ細工を極めることで新たな一歩を踏み出そうとする「闇に咲く」は出色。則三郎の葛藤、おりよの強さには共感が大きいだろう。
 この他の作品も、逆境に抗(あらが)い煌(きら)めく主人公たちを描いており、読後感が心地よい。また、投機的な手段で金を稼ぐのは果たして正しいのか、伝統と革新はどんなバランスにあるべきかなど、現代にも通じるメッセージをさりげなく織り込んでいるのも鮮やかである。
 本書は一話完結で進んでいくが、ある作品のエピソードが、別の作品で触れられているなど、次第に各物語に意外な接点があることが浮かび上がってくる。
 そして、三河と江戸に別れた後も手紙のやり取りで友情を育んできた旅籠(はたご)の主人・源兵衛と下級武士の木津恒之介が、安政の大地震に見舞われる最終話「文」になると、著者が時間と空間を異にする物語を紡いだ意図が明らかになる。
 約一五〇年の時の流れを追う本書は、この世にはいつの時代も変わらない価値観があること、先人の想(おも)いを受け継ぎ社会をよりよくすることの大切さを改めて教えてくれるのである。このテーマが凝縮した最後の一行は、強く印象に残る。
    ◇
 しがわ・せつこ 71年生まれ。作家。03年「七転び」でオール読物新人賞。『ご縁の糸』など。

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