書評・最新書評

世界をまどわせた地図 [著]エドワード・ブルック=ヒッチング

[評者]宮田珠己(エッセイスト)

[掲載]2017年10月15日

[ジャンル]歴史

表紙画像

■デタラメ、だけどチャーミング

 本書に登場するのは、すべてウソの地図である。あるものは意図的に、またあるものは誤解や怠慢によって描かれ、人々をまどわせてきた。地図を信じて探検に出かけたり、人生をかけ新天地に移住しようとした人もいるというから、ずいぶんと人騒がせかつ迷惑な話である。
 だが、本書を気まぐれにめくっていると、それらがときどき正確な地図よりもチャーミングに見えてくるのはどういうわけだろう。
 たとえば北極にあるとされた巨大な黒い山ルペス・ニグラ。この山は磁石でできており、周囲の海には強大な渦が巻き、海水が地球の中心に吸い込まれているという。この想像力の賜物(たまもの)はメルカトルの地図(1569年)に採用された。
 また同じ16世紀にオルテリウスによって描かれたアメリカ北東部の地図には、ノルムベガという町の記載がある。これは探検家のデタラメな報告を真に受けて描かれ、後に別の探検家がそこには金、銀、真珠がたっぷりあったと報告したため、イギリスやフランスが植民地にしようと躍起になったが、もちろん見つけることはできなかった。
 そのほか北米大陸西部にあるとされた巨大湾、ナイル川の源流と考えられていたムーン山脈、オーストラリア中央部の巨大な湖などなど、どれも実在しないにもかかわらず、それらのデタラメな地図を見るとワクワクしてしまう。
 知らない土地が盛大に残っていた時代。地図がところどころいい加減なのは当たり前のことだった。それは、たぶんこんなふうになっているのでは、といったその程度のものであり、そこには未知の世界を空想する余地が残されていた。
 それが今や、世界の隅々まで机上で見ることができる時代。便利にはなったものの、なんだか息苦しい。
 ここに載っているのはどれも間違った地図ではあるけれど、たまには描かれた当時の気分になって、世界の驚異に心遊ばせたい。
    ◇
 Edward Brooke−Hitching 古地図の愛好家。ロンドンでアンティーク地図と古本の山に囲まれて暮らす。

関連記事

ページトップへ戻る