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戦争の大問題―それでも戦争を選ぶのか。 [著]丹羽宇一郎

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2017年10月29日

[ジャンル]政治

表紙画像

■歴史を知らずに大人になる不幸

 一冊の書はときに生命体になりうる。本書はまさにそうだ。
 伊藤忠商事名誉理事、元中国大使、日中友好協会会長、それに幾つかの大学で教鞭(きょうべん)をとる。著者はいわば日本を動かす指導層の一人だが、「現代」を生きる私たちに戦争の本質をあえて直截(ちょくせつ)に語っている。日本人は未(いま)だ戦争や歴史の意味を知らないのではないか、依然として主観的願望を客観的事実にすりかえているのではないか、その体質を変えなければ「我々はひとつ間違うと、たちまち戦前の日本人に戻る可能性がある」との懸念が示される。そのためには人に学び本に学び体験に学べと忠告する。
 著者自身、まず戦争体験者の体験を聞き、そして現代の戦争とはどのようなものかを知らなければとの地点に立つ。日本が起こした日中戦争や太平洋戦争の実態とはいかなるものだったか、そして中国、北朝鮮の軍事戦略の分析と安易な日本国内の軍事論の危険性を、著者はひとつずつ確かめ警鐘を鳴らす。
 光る寸言が幾つも目につく。「日本人の中国嫌いは世界でも異常だ」「彼ら(注=かつての日本軍のエリート)は失敗しても責任を問われない。結果、見通しの立たないような作戦でも平気で立案する」「日本軍は殺人集団であり、略奪集団」「当地(注=レイテ)に眠る人々にとっては戦後はまだ終わっていない」「内心日本が負けることはわかっていたのだ」「国力とは、その国の国民の質と量の掛け算である」「敗北の現代史を学ぶ」などだ。
 安全保障と防衛力を同一視して論じる誤りから、企業経営の責任のあり方まで幅広く提示しながら、日本は安全保障上、「敵」をつくるべきでなく、むしろ軍事とは別の論理をもつ特別な国になれとの結論が導きだされる。歴史を知らずに大人になり有権者となる不幸という指摘は、まさに著者の心底からの叫びと解するべきだろう。
    ◇
 にわ・ういちろう 39年生まれ。伊藤忠商事会長などを経て、2010〜12年、民間出身で初の中国大使。

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