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政治経済の生態学―スウェーデン・日本・米国の進化と適応 [著]スヴェン・スタインモ

[評者]諸富徹(京都大学教授・経済学)

[掲載]2017年11月05日

[ジャンル]政治 経済

表紙画像

■高福祉で高競争力、両立の秘密

 グローバル化で福祉国家の維持は困難になるとされてきた。だが、この仮説は現実には妥当しないと本書は結論づける。スウェーデンは、その典型だ。この国の政府支出の対GDP比は50%を超える(日本は約37%)。まさに「高福祉・高負担」だ。しかし経済成長率、財政健全性、世界競争力ランキング、女性の就業率、平等度、どれをとっても先進国トップクラス、日本ははるか後塵(こうじん)を拝する。
 その秘密はどこにあるのか。本書は、それを日米両国との対比で解き明かそうとする。スウェーデンの長所は、変化への高い適応能力だ。産業構造のサービス化・知識集約型への転換は不可避と見るや、それを支える人的資本への投資(教育支出)に大きく舵(かじ)を切る。移民より社会分断が少ないという考慮から政府は、女性の労働市場参加を一貫して支持し、両性間平等を徹底させた。これを、充実した家族支援政策が支え、大きな政府部門が女性にポストを大量供給した。しかもスウェーデンは近年、すっかり移民の国へと変貌(へんぼう)を遂げている。現在、人口の12%は外国生まれ、将来的には4分の1が非北欧系になるとの推計もあるという。これらが、労働力の確保や社会保障の危機緩和に大きく貢献している。
 対する米国は、驚異的な経済活力、富の蓄積の一方で、社会的格差はますます拡大、反転の兆しが見えないことが、その将来に影を落とす。日本は、問題の所在が明確にもかかわらず、女性、移民、いずれをとっても適応への社会的合意ができず、衰退国家に足を踏み入れている。かつて、石油ショックを一体となって乗り切ったあの社会的団結力はどこへ行ったのか。
 現在の日本にとって苦しいのは、経済問題を純粋に経済問題としてのみ処理できない点にある。女性や移民をめぐる日本人の保守的心性、これが必要な変化を遅らせ、結果的に経済の足かせになっていると著者は鋭く指摘するのだ。
    ◇
 Sven Steinmo 53年生まれ。米コロラド大ボルダー校や欧州大学院大などで教授。『税制と民主主義』。

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