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経験をリセットする―理論哲学から行為哲学へ [著]河本英夫

[評者]宮田珠己(エッセイスト)

[掲載]2017年11月05日

[ジャンル]人文

表紙画像

■世界と自分を変えるために

 かつて河本さんの『オートポイエーシス』という本を読んだことがある。何が書いてあるのかさっぱりわからなかった。でも面白かった。わからないのに面白いとはどういうことかというと、何かものすごく斬新なことが書かれているという手ごたえがあったのだ。
 生命や社会をシステムととらえ、それがどのように作動し、どのように自らを創り変えていくかを解き明かしていくのだが、わかりにくいのは、自転車に乗れるようになった子どもが、どういう理屈で乗れたのか説明できないように、本来言葉で説明し得ないことを、できる限り言葉にしようとしていたからだ。
 本書は、それにくらべると格段に読みやすい。紀行エッセイの形を借りて、氏の理論が現実にどう役に立つのか、実践の場と接続するヒントがちりばめられている。もしくは、世界を変えるためのヒントというべきか。
 内容はあちこちに飛ぶ。「原発」や「復興」の話が出てくるかと思えば、「温泉」や「地熱発電」について、あるいは「荒川修作」「地磁気の反転」「東アジアの歴史記述」から「力み」の話まで。そこで描かれるのは、このこんがらがってしまった日本を、あるいは自分自身を、どの地点まで下りてリセットすべきなのか、そしてそれはどのように行為されるべきか、その感覚である。
 「他に手がなければ、自分自身の仕事を全力で行うという選択肢しか残されていないことがある。そしてこのときこそみずからに隙間を開いて、少し考えてみることも必要だと思われる」
 「急速な回復のプロセスを進んでいる箇所と、手つかずの箇所がまだら模様になっている。まだらが生じれば、その場所は自動的な回復軌道に入っている」
 経験を動かす、という言葉が何度も出てくる。それは理屈ではなく、〈何故(なぜ)だかわからないがうまくいく〉ための大事なステップであるようだ。
    ◇
 かわもと・ひでお 53年生まれ。東洋大教授(科学論、システム論)。著書に『〈わたし〉の哲学』など。

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