書評・最新書評

憲法と世論―戦後日本人は憲法とどう向き合ってきたのか [著]境家史郎

[評者]齋藤純一(早大教授)

[掲載]2017年11月12日

[ジャンル]政治

表紙画像

■改憲望む有権者、データで分析

 先月行われた総選挙の結果、与党をはじめ改憲勢力が議席の圧倒的多数を占めるようになり、改憲の発議も現実味を増してきた。
 本書は、戦後に行われた憲法に関する世論調査の集計結果を網羅的に収集、分析し、有権者が実際に「憲法をどのようにみてきたか」を明らかにする。憲法をめぐる世論の包括的な実証分析は、意外にもこれまで現れなかった研究であり、貴重である。
 著者が強調するように、世論をとらえることはけっして容易ではない。有権者が調査にどう答えるかは、質問の文言、順序などによっても左右される。憲法のいずれかの条項を変えることへの賛否と9条を変えることへの賛否は自(おの)ずと異なるし、後者の場合も、自衛隊を正式の軍隊に変えるのか、自衛隊の存在を明記するのかでは答えは大きく異なってくる。
 ところが、一般的な改憲支持を9条改憲支持とみなす誤認は、学術書にさえ散見される。本書は、周到な分析を通じて、「制定当初から9条は圧倒的多数の国民から支持されていた」などの通念に疑問を呈するとともに、どのような有権者が改憲を望んできたかにも、個人レベルのデータを活用して分析を加えている。
 この先実施される世論調査は、与党が戦後初めて改憲の発議に踏み切るか否かを左右する。与党としては発議に続く国民投票での否決を避けなければならないからである。今後の世論調査にあたっては、調査の継続性を重視するだけではなく、どの条項をどう改めるのかについて明確な質問を設けるべきである。
 改憲論議の焦点となる9条への「自衛隊の明記」については、10年ほど前は高い賛意が示されたが、最近の世論調査では賛否が拮抗(きっこう)している。本書によれば、個々の有権者の憲法意識は必ずしも安定していない。事は重大であるだけに、改憲が社会をどう変えていくかについて理解を怠らないようにしたい。
    ◇
 さかいや・しろう 78年生まれ。首都大学東京准教授。著書に『政治的情報と選挙過程』。共著に『政治学の方法』。

関連記事

ページトップへ戻る