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転生の魔―私立探偵飛鳥井の事件簿 [著]笠井潔

[評者]末國善己 (文芸評論家)

[掲載]2017年11月12日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■43年前の謎、戦後史問い直す

 作家、評論家として活躍する笠井潔だが、最近は評論の仕事が中心になっていた。本書は6年ぶりのミステリーであり、14年ぶりとなる〈私立探偵飛鳥井(あすかい)〉シリーズの新作である。
 2015年。動画共有サイトで安保法案反対デモを見ていた山科三奈子は、群衆の中に43年前に姿を消した友人のジンと瓜(うり)二つの女がいることに気付き、その捜索を飛鳥井に依頼する。
 1972年。三奈子は、何度も転生していると語るジンに、鳳凰(ほうおう)大学のサークル棟前に来て欲しいと頼まれる。ジンは、三奈子と共に4階にある歴史学研究部に行くと、5分後に来て欲しいといって先に部室に入った。だが三奈子が入り口を監視していたのに、ジンは忽然(こつぜん)と姿を消したのだ。
 デモに現れたのは、生まれ変わったジンなのか?
 事件の関係者を捜す飛鳥井は、ジンが消えた現場にいたノンセクトの学生たちが今や、リストラ専門の企業コンサルタントを営む新自由主義者、無差別テロで多くの死傷者を出した新興宗教の出家信者、息子の引きこもりに悩み自身も自宅に引きこもった男、そしてイスラム過激派との繋(つな)がりが噂(うわさ)されている男などに変貌(へんぼう)していた事実を知る。
 70年代に青春時代を送った若者が、現代日本の“闇”を体現する存在になるプロセスには、戦後史を問い直す視点がある。何より、探偵も依頼者も還暦を過ぎ、心身の衰えと病気に苦しみながらも過去と向き合い、奇怪な謎を解こうとする展開そのものが、少子高齢化が進む日本の戯画に思えた。
 さらに作中では、政治に無関心な日本人が増えた理由、左翼過激派とイスラム原理主義の接点といった社会思想も議論されていく。
 その意味で本書は、『テロルの現象学』で自身の左翼活動を清算し、東日本大震災以降は『3・11後の叛乱(はんらん)』『テロルとゴジラ』などの評論で現代日本と向き合ってきた著者が、これまでの問題意識を小説で表現した到達点なのである。
    ◇
 かさい・きよし 48年生まれ。作家、評論家。79年『バイバイ、エンジェル』に始まる「矢吹駆シリーズ」など。

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