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小さな大世界史―アフリカから出発した人類の長い旅 [著]ジェフリー・ブレイニー

[評者]山室恭子(東工大教授)

[掲載]2017年11月12日

[ジャンル]歴史

表紙画像

■流れの速いスリリングな航海

 ホモ・サピエンスのみなさま、ようこそ「出アフリカ・クルーズ」へ。流れが速いので、しっかりおつかまりください。
 さっそく見えてまいりましたのは〈驚きの海〉です。あれだけ広いのに、ぎざぎざの陸地にがっちり囲まれて鏡のごとく穏やかで潮の満ち干も少ない水面。ガレー船が活発に行き交い、あまたの文化が交錯して強大な帝国がつぎつぎに栄えました。この地にこの海がなければ、人類の歴史はまったく変わっていたことでしょう。
 まもなく、三つの世界宗教の発祥地を通過いたします。どの宗教も発祥地から遠く離れた場所で布教に成功したのは、試練が教義を鍛え、普遍化をうながしたのでしょう。
 そして前方が〈三色旗の大地〉です。今のアメリカ合衆国の4分の1の広さを占めるこの地域が1エーカー3セントの超安値で1803年にナポレオンから合衆国に売却されました。もし、あのときナポレオンが戦争貧乏でなければ、新大陸には星条旗アメリカと三色旗アメリカの二つの国が並立して巨大国家は生まれず、歴史はまったく変わっていたかもしれません。
 硝煙が漂ってまいりました。1914年夏、世界大戦の開始です。誰もがクリスマスまでには決着すると信じていたのに、最新兵器に対応した〈新防衛システム〉が出現して長期戦となり、ロシア革命を誘発しました。なまじ〈新防衛システム〉など採用せず早期決着していれば、ヒトラーもアメリカの台頭もなかったことでしょう。
 そう、このクルーズは重大な分岐点に満ちております。もう一度アフリカを出発するところからやり直しても、まったく異なる航跡となるでしょう。そんなスリリングな航海をこの先もどうぞお楽しみください。最後に注釈、〈驚きの海〉は地中海、〈三色旗の大地〉は仏領ルイジアナ、〈新防衛システム〉は塹壕(ざんごう)線、でした。ボン・ボヤージュ!
    ◇
 Geoffrey Blainey オーストラリアの歴史家。650ページを超える大著をコンパクトにしたのが本書。

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