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ダーティ・シークレット―タックス・ヘイブンが経済を破壊する [著]リチャード・マーフィー

[評者]諸富徹(京都大学教授・経済学)

[掲載]2017年11月19日

[ジャンル]経済

表紙画像

■低税率より秘匿性が問題の本質

 本書はタックス・ヘイブンを、「低税率国」としてよりも「守秘法域」と見るべきだと主張する。たしかに税率の低さは問題だが、租税回避が可能なのは、「パナマ文書」や「パラダイス文書」が暴いたように、あらゆる情報がそこで秘匿されるからだ。
 タックス・ヘイブンを利用する企業は、この秘匿性ゆえ、母国の民主的統制、規制、課税、そして情報公開要求から逃れ、企業秘密を保持することで競争相手への優位性を確保する。著者はこの秘匿性が、各国の民主主義と財政基盤を掘り崩し、公正な競争を歪(ゆが)め、貧富の格差をいっそう拡大させる点に、問題の本質がある、と鋭く指摘する。
 著者らが開発に関わった「金融秘密度指数」は税率よりも、この秘匿性に焦点を当てた指標だ。この指標に基づく国際ランキングでは、なんと日本が2010年代以降、名だたるタックス・ヘイブン国を押しのけてワースト20にランク入りしている。これは一体、どういうことであろうか。
 本書が、数あるタックス・ヘイブン関連本の中でもきわめて秀逸なのは、それを打破する具体的な戦略を提示しているからだ。秘匿性と闘う武器は、やはり情報の公開性である。著者はこの点で、自らもその提案に関わったOECDによる多国籍企業への国別報告書作成・提出要求の意義を強調する。本書の試算が示すように、この報告書で得られるデータを丹念に突き合わせれば、多国籍企業の租税回避の証拠を、動かぬ事実として提示できる。著者は、この報告書を税務当局だけでなく、株主を含めたあらゆる利害関係者に公開すべきだと訴える。公開性こそが、多国籍企業の租税回避に対する最も強力な牽制(けんせい)作用をもつからだ。
 本書は、我々があらゆる秘匿性と闘わなければならないことを教えてくれる。それはどこか遠くの南の島だけでなく、我々先進国内部をもすでに蝕(むしば)んでいるのだ。
    ◇
 Richard Murphy 英国の公認会計士。2015年にシティ大学ロンドンの国際政治経済学科の実務教授に就任。

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