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他人の始まり 因果の終わり [著]ECD

[評者]椹木野衣 (美術評論家)

[掲載]2017年11月19日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

 作者はラッパー。書き下ろしは10年ぶり。「アル中」体験を題材にした前作同様、過酷な状況を他人事(ひとごと)のように突き放す。
 だが「なんとなくボンヤリと家族のありさまを書いてみよう」と書き始めたエッセイは、警察からの突然の電話で局面が切り替わる。実弟が腹を切って死んだという。なぜそんなことになったのか。
 弟は、心を病んで死んだ母が家にのこした作者の父と住んでいた。家族から離れた自分のせいなのか。それとも彼自身が抱えた個人の問題だったのか。家(因果)か、個(他人)か。いくら考えても答えは出ない。
 この問いは、作者自身ががん宣告を受け、手術で欠損した体を死の現実ごと受け入れることで、ある実感へと繋(つな)がっていく。家族といえども死までを共有することはできない。作者はようやく家族という「因果の終わり」を得たのだ。そして新たに「他人の始まり」からなる「家族」の縁を裏腹に取り戻す。

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