書評・最新書評

重力波 発見!―新しい天文学の扉を開く黄金のカギ [著]高橋真理子

[評者]サンキュータツオ(お笑い芸人、日本語学者)

[掲載]2017年11月19日

[ジャンル]科学・生物

表紙画像

■人は「世界」をどう捉えてきたか

【概要】昨年初観測が報告され、世界中に衝撃を与えた「重力波」とは一体なんなのか。それを説明する本はたくさんある。しかし、この本はとりわけ宇宙に関して詳しくない一般読者でも理解できる言葉でそれを説明する。と同時に「重力波」発見の歴史的意味(つまり物理学や、時間や空間や宇宙を人類がどう捉えてきたか)がわかるようになっている。1916年にアインシュタインが存在を予言し、ちょうど100年後である2016年に「重力波 発見!」の報を受けた科学記者が、定年までに培った記者人生の集大成とも言える視点と言葉で世界を広げてくれる。
【読む前に】もし邪馬台国がここにあったという決定的な証拠が出てきたらだれしも衝撃を受けるはずだ。「重力波」も同様に、存在すると考えられていながら観測できなかったバベルの塔だった。この状態を「物的証拠から指紋やらDNAやらが大量に見つかって犯人の自供もとれ」ていながら、「犯行の瞬間を撮ったビデオ」だけが見つかっていないような状態だと著者は言う。宇宙の話になるとモヤモヤしてしまう人の気持ちを察してか、説明すべきことを読者がわかる言葉や状況に置き換えて語る姿勢が心地よい。
【所感】私たちは生きている間に、フェルマー予想の完全証明と重力波の発見に立ち会うことができたと喜べる。重力波を説明することは、アインシュタインを説明することであり、アインシュタインを語ることはニュートンやファラデーやマクスウェルを語ることなのだと知る。「知」は国境や人種や時代までをも超え、人類全体で蓄積されていく。この本では、古事記が引用され時計の歴史も知ることができ、人が時間や宇宙といった「世界」をどう捉えてきたかを知るためのジャンルレスな「知」の蓄積に触れることができる。
 日本では日陰者扱いだった「重力波」研究の学者らの魂の継承史も必読である。
    ◇
 たかはし・まりこ 56年生まれ。朝日新聞科学コーディネーター。『最新 子宮頸(けい)がん予防』ほか。

関連記事

ページトップへ戻る