書評・最新書評

きものとジャポニスム―西洋の眼が見た日本の美意識 [著]深井晃子 舞台の上のジャポニスム―演じられた幻想の〈日本女性〉 [著]馬渕明子

[評者]斎藤美奈子 (文芸評論家)

[掲載]2017年11月26日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能

表紙画像

■欧州でブーム「日本趣味」の功罪

 ジャポニスム。19世紀後半〜20世紀初頭のヨーロッパで流行した「日本趣味」のことである。日本の浮世絵が印象派などの西洋絵画に大きな影響を与えたのは有名な話だけれど、じゃあ美術以外の分野は?
 深井晃子『きものとジャポニスム』はファッションの面からジャポニスムの影響を探った労作である。
 1860年代から1920年代まで、パリのモードに影響を与えた日本のきもの。それは私たちが想像する以上のブームだったらしい。まずそれは室内着として流行し、「ジャポネ」と呼ばれる舞踏会用の半コートなどを生む一方、ほどけば一枚の布となることから室内装飾に使われ、リヨンのテキスタイル・メーカーにも影響を及ぼした。
 特に斬新なのは、きものが衣服の造形を変えたという指摘だろう。第一次大戦後、女性の衣服はウエストをコルセットで締め付けた形から、肩を支点に着るストンしたデザインに変容するが、それはゆったりとした長方形のきものに触発されたのではないか……。わっ、ほんと?
 とはいえ、浮かれてばかりもいられない。
 馬渕明子『舞台の上のジャポニスム』(こちらも労作)は19世紀後半の演劇やオペラに描かれた日本女性のイメージを批判的に検証した上で結論づける。
 日本はせっせと西洋を模倣したのに〈日本が欧化するさまを歓迎した西洋人はほとんどいな〉かったし、〈着物こそは日本女性の代名詞であり、それを着ない日本人は西洋人を魅了することは難しかった〉。
 しかも、1920年代を境にジャポニスムは急速に廃れる。日本が変化したためだ。愛すべきエキゾティックな途上国から、危険に満ちた狡猾(こうかつ)な軍国主義国に変貌(へんぼう)した日本。そうなれば百年の恋も冷める、と。
 観光立国の掛け声の下、今日も和のイメージの売り出しに余念のない日本。それが正解か、ちょっと振り返ったほうがいいかもね。
    ◇
 ふかい・あきこ 43年生まれ。服飾研究家。▽まぶち・あきこ 47年生まれ。国立西洋美術館長。

関連記事

ページトップへ戻る