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どうしても欲しい!―美術品蒐集家たちの執念とあやまちに関する研究 [著]エリン・L・トンプソン

[評者]サンキュータツオ(お笑い芸人、日本語学者)

[掲載]2017年11月26日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■受け手の眼力に委ねられる真贋

【読む前に】 古今東西のコレクターの異常なる執着心の数々を報告してくれるのだろうと多くの人は想像するかもしれない。どんなに家族に反対されても、執念をもって美術品を求める人たち。もちろんその手の報告も数多いが、それだけでは終わらないのがこの本の「研究」たるゆえんである。
【概要】 美術品犯罪を専門とする「アメリカで唯一の」フルタイム勤務の教授による蒐集(しゅうしゅう)家たちの研究。笑って読める内容だと読み進めていると、副題に「あやまち」と書いてある理由がわかってくる。美術品蒐集は、個人レベルではなく国家事業として進められ、それが国のアイデンティティの捏造(ねつぞう)に一役かっていたり、「家」という単位や「個人」という単位でも美術品としての価値以上に、〈この品を持っていることは正統な継承者の証(あかし)〉というロジックに利用されていたことがわかってくる。さらに、「修復」という概念が私たちが考えているよりもはるかに「改竄(かいざん)」や「偽造」に近い行為だったことや、蒐集自体が盗掘、密輸といった美術品をさらに傷つける深刻な事態を招くことも紹介されている。
【所感】 美術品蒐集は個人の趣味以上に政治的な意味合いを持つことは知ってはいた。しかし、古代ローマのヘルマプロディーテという像が、両性具有であったところを「去勢」され、さらに周囲に存在した3人の幼児すら削り取られてヴィーナス像へと「修復」されてしまっていたという事実には驚愕(きょうがく)した。原形に近づけるのが「修復」ではなく、望んだ形に整えるのが「修復」なのだ。
 国家の威信をかけてコレクションに精を出す清く全うな買付人がいる一方で、「真作」を認定することは「贋作(がんさく)」を作りやすくすることと同義だという指摘にはハッとした。真実とフェイクは、ネットや図録がない時代から、常に情報の受け手の眼力に委ねられる表裏一体の関係であった。
    ◇
 Erin L. Thompson 米ニューヨーク市立大ジョン・ジェイ・カレッジ刑事司法大学院教授。本書が初の単著。

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