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熱帯雨林コネクション―マレーシア木材マフィアを追って [著]ルーカス・シュトラウマン

[評者]山室恭子(東工大教授)

[掲載]2017年12月03日

[ジャンル]政治

表紙画像

■賄賂と乱伐、悪魔からの贈り物

 ——楽園があった。名はサラワク。ボルネオ島北西部の豊かな森で、人びとはサゴヤシの樹(き)からデンプンを採り、吹き矢で鳥を狩って暮らしていた。
 楽園のほとりに悪魔が生まれた。名はタイブ。貧しい大工の息子の彼は、小さな偶然でサラワク州の大臣となり、より大きな権力が欲しくなった。そのためには資金が要る。そうだ、伐採ライセンスを売ろう。
 タイブは既存の伐採ライセンスをいったん凍結し、賄賂と引き換えに業者に再発行するシステムを思いつき、実行した。
 大破壊が始まった。ブルドーザーとチェーンソーが熱帯雨林を薙(な)ぎ払い、切り出された木材は建設ラッシュ中の日本が消費した。
 破壊は世界へ広がった。楽園の樹をあらかた倒し終えた木材王たちは、近くはニューギニア、遠くはアマゾンの密林までブルドーザー隊で荒らし回った。
 同時に巨額のブラックマネーが世界を汚染した。賄賂で肥え太ったタイブは、自国のマレーシアはもとより、香港・カナダと各地に傘下の企業を数百社も設立し、吸い上げた富を増殖した。違法を訴える内部告発者は自殺に追い込んだ。
 白馬の騎士が現れた。名はブルーノ・マンサー。スイス生まれで、サラワクの自然をこよなく愛し、原住民と森で暮らしていた彼は、悪魔の侵攻に敢然と立ち向かった。道路を封鎖し、国外への抗議ツアーも催した。運動は実らず、彼の足跡は森に消えたが、仲間が志を継ぎ、わずかな森を守る戦いは続いている。
 乱伐で森が再生できなくなった跡地には、一面にオイルパームの赤い実がきらめく。腐敗しやすく大企業にしか管理できない実だ。
 33年後、悪魔は去り、楽園は永遠に失われた——。
 これがサラワク版の失楽園である。楽園を失う。顧みれば人類は、創世以来それを繰り返してきた。何かを得れば必ず何かを失う。私たちは今、悪魔の贈り物の上で暮らしている。
     ◇
 Lukas Straumann 69年生まれ。スイスのジャーナリスト。マンサー基金エグゼクティブ・ディレクター。

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