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エッジィな男 ムッシュかまやつ [著]サエキけんぞう、中村俊夫

[評者]細野晴臣(音楽家)

[掲載]2017年12月10日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■B級ミュージシャン貫いた才人

 昭和と平成を駆け抜けた「ムッシュ」こと釜萢(かまやつ)弘は今年3月に78歳で他界した。僕にとっては唯一無二の「先輩」ロックミュージシャンであり、日本の芸能界に居座らず、自称「バンドマン」として音楽を楽しむ彼の姿勢に共感と親しみを抱いていたものだ。
 1973年ごろだったか、共演したときに忠告をしてくれたひと言が忘れられない。既に解散していた「はっぴいえんど」について、「自分のやってきたことをもっと大事にしたほうがよい」との話だったが、今思えば音楽の過去と未来を見通す鋭敏な感覚の持ち主だったことがわかる。
 本書では、ムッシュのその才を彷彿(ほうふつ)させる興味深い逸話が語られる。自身が語った半生記もある。とくにジャズがルーツとあるが、そもそも彼の父ティーブ釜萢は米国生まれのジャズマン。僕も20代の頃に面識を得たが、戦後、日本にジャズの学校を設立してミッキー・カーチスや平尾昌晃、ペギー葉山ら、その後のポップスを牽引(けんいん)する歌手を育てた立役者だった。その息子のムッシュが洋楽を聴いて育ったのは当然である。
 だが、苦労もしている。早くも10代の頃からジャズシンガーを目指したが、不発に終わる。不本意な歌を歌わされた時期もあったという。そして時代の移り変わりと共にカントリー&ウェスタンを経てビートルズに触発され、60年代末の日本のロック創成期に多大な功績を残す。「かまやつひろし」名義で作詞作曲したザ・スパイダースの「フリフリ」(65年)は三三七拍子を基調にした斬新な洋楽風音楽で、歌謡曲全盛だった日本の音楽界では異色のスマッシュヒットを放ったのが印象深かった。
 その後も反骨的ロック魂の旺盛なムッシュは「生涯B級ミュージシャン」として和風メロディーに抵抗。一生を心身ともに「バンドマン」として生き抜いたと言える。本書はそんなムッシュを忘れないための参考書になるだろう。
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 さえき・けんぞう アーティスト。著書に『歯医者のロック』▽なかむら・としお 54年生まれ。GS評論家。

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