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最後のソ連世代―ブレジネフからペレストロイカまで [著]アレクセイ・ユルチャク

[評者]椹木野衣 (美術評論家)

[掲載]2017年12月17日

[ジャンル]政治 アート・ファッション・芸能

表紙画像

■ロックに熱狂した「彼ら」の青春

 本書で「最後のソ連世代」とは「ペレストロイカ時に大学入学年齢から三十代だった人」を指す。停滞を代名詞とするブレジネフ時代の落とし子と言ってもいい。だが、ソ連全体でかれらが占める割合は大きく、ベルリンの壁が崩れた時点で3分の1にも及んでいた。ところが、これまでのソ連研究は党や国家の政治・経済の分析が中心で、かれらの青春に目を向けるものはなかった。
 驚かされるのは、硬直し抑圧された生活を強いられていたという西側から見た紋切り型が、いかに実像とかけ離れていたかだ。後期ソ連にまつわるこうした負のイメージは、主に冷戦解体後に作られている。その影響を避けるため、著者は、この世代が同時代に残した日記や書簡の公開を広範囲にわたって呼びかけ、丁寧に分析している。
 本書によると、当時のソ連に顕著だった「権威的な言葉」はすでに実質を失っており、繰り返されるたび「西側」の哲学者デリダが言うところの脱構築が可能になっていった。実際、かれらは一方で綱領を守りながら、他方で堕落した西側のロック・ミュージック(定番のビートルズばかりか、ヘヴィメタのブラック・サバスやプログレのキング・クリムゾンまで!)に熱狂していた。つまり、かれらのなかでは「『ブルジョア』世界とソ連世界の並存を自明視」するまでに至っていたのだ。私は現代美術の調査のため崩壊直前のソ連に初めて渡ったが、事前の臆測に反して、道理で「かれら」と話が弾んだはずである。
 ロシア革命100年も、まもなく幕を引く。その掉尾(ちょうび)を飾るのにふさわしい大部の専門書にもかかわらず、いや、だからこそ、その内容は「権威的な言葉」の意匠に似つかわしくない「予測不可能な実験精神」へと裏返され、読んでいて実に楽しい。当時20代だった私も、実は隠れた「最後のソ連世代」だったのかもしれない。
    ◇
 Алексей Юрчак 60年、ソ連生まれ。米カリフォルニア大准教授(人類学)。ソ連解体直前に米国に渡る。

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