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光の犬 [著]松家仁之

[評者]市田隆(本社編集委員)

[掲載]2017年12月17日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■生と死で紡ぐ、ある家族の記憶

 北海道東部の架空の町・枝留(えだる)を主な舞台に、明治から平成の世に至る3代の添島家の人々と、飼われていた4代の北海道犬の軌跡をたどった物語。
 百年以上にわたる三代記といえば、波瀾万丈(はらんばんじょう)のストーリーを予想するかもしれないが、かなり様相が異なる。普通の人々がそれぞれに生きて、連関していく様が丹念につづられ、静かな感動を呼び起こす。添島家の営みを包んでいる、道東の広々とした自然の冷えた大気の感触も小説から伝わってくるようだった。
 関東大震災を機に東京から移り住んだ薄荷(はっか)工場役員眞(しん)蔵と助産婦よねの夫婦。4人の子供のうち一枝、恵美子、智世の3姉妹は独身で、この家で長く暮らす。唯一の男性で川釣りと北海道犬を愛す眞二郎と職場結婚の登代子の夫婦には、姉の歩、弟の始という子供がいた。犬たちは、彼らのささやかな喜び、不安や悲しみを知っているかのように寄り添っている。
 著者の描き方は、虫眼鏡で地面に目をこらしたり、望遠鏡で地平線に目をやったりと、長い歳月の中で家族の様々な姿に自在に焦点を合わせ、のぞき込んだ読者を引き込んでいく。
 生と死の繰り返しを意識させる場面が随所にある。大学生の歩が教授に、人間の体は「燃やされれば灰になります」と話すと、教授は「わたしもあと十年くらいしたら、灰だ」。また、天文台の研究者になった歩が、生前の記憶がない祖母よねたちの仏壇写真を見て「そこで時間が止まっている」と思う。その一方で、町の牧師の息子・一惟と歩の淡い恋が、生命の一瞬の輝きに感じられた。
 ただ、その美しさだけではない。50歳を過ぎた弟の始が大学教授を辞めて地元に戻った時、両親やおばたちの老いに向き合い、介護に忙殺される。老いのむごさも、生の一つの断面だ。
 読者はこの家族の物語を読み終えると、自分の人生を振り返り、思いふけることになるだろう。
    ◇
 まついえ・まさし 58年生まれ。作家。著書に『火山のふもとで』(読売文学賞)、『沈むフランシス』など。

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