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原武史 書評委員が選ぶ「今年の3点」

[評者]今年の3点(書評委員)

[掲載]2017年12月24日

表紙画像

(1)福島尚鉄道画集 線路は続くよ(福島尚著、二見書房・2376円)
(2)ゲンロン0 観光客の哲学(東浩紀著、ゲンロン・2484円)
(3)千の扉(柴崎友香著、中央公論新社・1728円)
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 本当は3点に絞れないことを最初に断っておく。(1)は記憶だけで描かれた西武鉄道や八高線などかつての駅や列車の画集。鉄道とは空間を移動する旅だけでなく時間を移動する旅もできると思い知らされた。(2)は有名思想家の言説をただ解釈するのではなく、それらを総動員しながら21世紀の新しい政治哲学を構築しようとする気宇壮大な試み。解釈の厳密性にこだわり、こうした試みをしてこなかった学界の「敗北」を認めるべきと感じた。(3)は新宿区の戸山ハイツとおぼしき団地を舞台に、造成される前からここに住み、団地の黄金時代を経て高齢化により過疎化するまでの時代を見つめてきた男性の生涯を通して、戦後日本の光と影を浮かび上がらせようとする小説。団地小説の白眉(はくび)だと思う。
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 本とは書く言葉を持てる「強者」の世界。言葉を持てない「弱者」をより自覚しなければと感じた1年でした。

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