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「11の国のアメリカ史」書評 混沌のレース、行方やいかに

評者: 山室恭子 / 朝⽇新聞掲載:2018年01月14日
11の国のアメリカ史 分断と相克の400年 上 著者:コリン・ウッダード 出版社:岩波書店 ジャンル:歴史・地理・民俗

ISBN: 9784000220972
発売⽇: 2017/10/25
サイズ: 20cm/271,19p

11の国のアメリカ史―分断と相克の400年(上・下) [著]コリン・ウッダード

 アメリカ開拓レース、ゲートオープン!
 バラついたスタートになりました。まず先頭を奪ったのはスペイン産「エル・ノルテ」、しかし母国の衰運に引きずられて早々に失速です。ついでフランス産「ニューフランス」、イギリス紳士「タイドウォーター」。
 なんとピューリタン発「ヤンキーダム」が伸びてきました。新社会建設の理想に燃え、多数の学校を設立して教育力を武器に、みるみる加速しています。負けじとドイツ農民「ミッドランド」は家族経営で手堅く、イギリス辺境民「アパラチア」はダート向きの荒々しい走りで追います。
 独立戦争コーナー通過。各馬足並み揃(そろ)わず、相互に駆け引きをしながら、連邦型のゆるい馬群を形成しています。あ、「ニューフランス」、カナダ方面へコースアウトですね、残念。
 ここで大外を回って「ディープサウス」、奴隷が生み出す砂糖と綿の富を力に、たくましい馬体がぐいぐい先頭に並びかけます。
 南北戦争コーナー通過。「ヤンキーダム」、ハナ差リード。「ディープサウス」は進路を「アパラチア」に遮られて怒っています。独立不羈(ふき)の「アパラチア」がお節介(せっかい)焼きの「ヤンキーダム」に味方するとは予想しなかったのでしょう。
 世界大戦コーナー通過。アメリカは世界に打って出るべきか。積極派の「ディープサウス」は「アパラチア」と折り合い、慎重派の「ヤンキーダム」は「ミッドランド」に西海岸の「レフト・コースト」も巻き込んで、競り合いが続きます。
 21世紀到来。おっと序盤で失速した「エル・ノルテ」が、メキシコの破綻(はたん)を吸収して盛り返してきました。
 ごらんの通り、アメリカは400年間、出自も主義も異にする11の勢力が併走し、合従連衡と叩(たた)き合いを繰り返してきたのです。混沌(こんとん)きわまるレースの行方やいかに。合衆国というゆるい結び目は、ほどけてしまうのか? 世界の未来がかかっています!
    ◇
 Colin Woodard 68年生まれ。米国の歴史家・ジャーナリスト。本書は11年に本国で刊行、話題になった。