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島田雅彦「深読み日本文学」書評 文学は批判精神を磨く道具

評者: 斎藤美奈子 / 朝⽇新聞掲載:2018年02月04日
深読み日本文学 (インターナショナル新書) 著者:島田 雅彦 出版社:集英社インターナショナル ジャンル:小説・文学

ISBN: 9784797680164
発売⽇: 2017/12/07
サイズ: 18cm/237p

深読み日本文学 [著]島田雅彦

島田雅彦先生は突飛(とっぴ)な先生だ。文学を語るのにホモ・サピエンスだけが獲得した言語能力の話からはじめ、昨今の政治家や官僚の不誠実きわまりない態度を例に〈そうしたエセ文学的な「言葉の悪用」をする人たちを批判するのが、文学の本来の役割なのです〉と断じる。ここまでいわれちゃ、文学ファンならずとも読むしかあるめえ。
 カリスマ予備校講師もかくやの話術は各論でも変わらない。西洋の女たらしが女性を狩りの対象とみる狩猟採集民族型のドン・ファンなら『源氏物語』の光源氏は農耕民族型のドン・ファンだ。井原西鶴や近松門左衛門はライトノベルの元祖だ。樋口一葉は多様な階層の人々を描くことで、図らずも日本の民主化に成功した。谷崎潤一郎は一生変態、坂口安吾は一生権威を疑い続けたが、ゆえに戦争の影響を受けなかった。
 先生曰(いわ)く〈文学は実学である〉。文学は暇人の趣味ではなく批判精神を磨く道具だとの説に目が覚める。