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全脳エミュレーションの時代―人工超知能EMが支配する世界の全貌(上・下) [著]ロビン・ハンソン

[評者]長谷川眞理子 (総合研究大学院大学学長(人類学))

[掲載]2018年04月07日

[ジャンル]IT・コンピューター

表紙画像

■技術開発の影響を総力で考える

 これは大変に奇妙な本である。多くの人は、最後まで読み通さないかもしれない。私自身、決して楽しく読んだわけではない。では、なぜここに紹介するのか? まずは、本書のタイトルにある「全脳エミュレーション」とは何か。これは、ある個人の脳の細胞もシナプス結合も全部そっくりコンピューターにコピーし、それをもとにして働くAIを作ることを指す。つまり、人間と同じように機能する汎用(はんよう)AIを作る一つのやり方だ。
 そもそも、そんなことができるのか、にわかには信じがたい。しかし、現在のAI業界でその努力がなされているのは事実。さらに、ある人の脳をそっくりコピーできたとしても、それが実際に働くためには、身体がなければならない。それはロボットなのかと言うと、バーチャルな世界に住むバーチャルなボディーでもかまわない(ああ、もうわけがわからない、という声が聞こえてきそうだ)。
 ところが、本書の主題は、汎用AI作成のことでも、それで人間がどうなるかということでもない。こんな技術が可能となった先の時代の話である。この汎用AIを「エム」と呼ぼう。舞台は、エムが完成し、エムがエムをコピーして増殖し、ほとんどの仕事をエムたちが行うようになった時代だ。さて、エムたちはどんな行動をし、どんな社会を作るのか? エム社会の法律や働き方はどうなるのか? 著者が描くのは、そのような未来である。
 そこで、なぜ私が本書を取り上げたか。それは、ある技術が出現したとき、それが全社会的にどんな影響を及ぼすのかについて、知力を結集して考えるという著者の態度が重要だからだ。技術開発は、普通、ある特定の目的を達成することしか見ていない。しかし、それが完成したときには、思いもよらない影響が社会のすみずみにまで及ぶ。そこを考えようとした試みとして、本書を評価したい。
    ◇
 Robin Hanson 59年米国生まれ。ジョージメイソン大経済学准教授。NASAで人工知能研究に従事。

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