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お寺はじめました [著]渡邊源昇

[評者]横尾忠則(美術家)

[掲載]2018年04月14日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■一から布教「好きでやってます」

 「お寺はじめました」と一言で片付けてしまうほど簡単な話ではないのです。
 15歳で同級生の住職の父親に「お坊さんにならないか」と声を掛けられて「なります」と即答。住職が「楽しそう」に見えたからと言って遊び半分で釈迦がすべてを捨てて仏道の世界に入ったことと同じ道を歩むにはよほどの覚悟か宿命的な仏縁がなければ出家などできるものではない。
 きっと腰がくだけて日蓮宗の総本山身延山久遠寺から逃亡、下山するに違いないと手ぐすね引きながら脱落する瞬間を期待(?)していたにもかかわらず、この若者は世界三大修行のひとつ加行所(荒行)という死の寸前まで身を投じる極限の修行まで完遂、その結果「自分の中にも仏がいる」ことを自覚する域にまで到達。彼の修行には内なる仏の体験があって初めて、自分と向き合う〈生き方〉が可能で、感動を超えて、異次元の領域に接触した気分にさせられた。でもご本人はそんな過酷な修行に対する愚痴など一言もなく、自然体に淡々と掃除中心の日々の修行で生活を描いて見せる。
 本書の趣旨は一からお寺をやってみたいというお寺活動である。そのために民家を借りて、そこを拠点に布教活動をしながらお寺に人々を寄せ集めなければならない。たったひとりの寺活動は何の商売をするより大変だ。総本山での骨身を削る修行の体験があって初めてできる大事業である。
 僕は本書を読みながら何度もかつての中学生が決意したあの発心は一体何だったんだろうと考えると、不思議な気持ちにさせられる。彼の中の内なる仏が同行二人となってあの修行とお寺造りに力を添えることだろう。彼の周辺にはいろんな人たちが集まってきている。「なぜ寺を建てるの?」と友人の住職にきかれ、「好きでやってますから」と答えるこの言葉が全てを語っている。僕の一番好きなところだ。そして、気に入っている。
    ◇
 わたなべ・げんしょう 87年生まれ。日蓮宗の僧侶。2014年に埼玉県越谷市に越谷布教所源妙寺を開堂。

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