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すごい廃炉―福島第1原発・工事秘録〈2011〜17年〉 [写]篠山紀信 [文]木村駿

[評者]椹木野衣 (美術評論家)

[掲載]2018年04月21日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能

表紙画像

■何も生産しない技術を競い合う

 震災後、福島第一原発の視察で構内に入った。緊張して臨んだが、すでに防護服が必要ない場所も多いと聞いて驚いた。「フェーシング」(表面遮水)を始めとする作業が進んだ成果らしい。
 ほかにも現地では、ふだん聞き馴(な)れない最新技術の名が飛び交っていた。多核種除去設備、シルトフェンス、リプレース、サブドレン……。なかでもインパクトが強かったのが、本書でも詳しく取り上げられている凍土遮水壁だ。1〜4号機原子炉建屋内への地下水の流入を防ぐため、その周囲を総延長1500メートル、深さ30メートル、厚さ1・5メートルに及ぶ凍土壁で囲んでしまうというのだ。土木の世界では以前からあるようだが、これだけの規模で実施されるのは前代未聞らしく、素人にはまるでSFの世界である。
 読み進めるうち、私は1970年の大阪万博を思い出していた。前例のない「すごい」技術について触れられる際、提供している企業の名が必ず付されるからだ。事実、視察のときもまるでパビリオンのようにその前を通るたび解説が入った。
 大阪万博では、高度経済成長の頂点で、日本を代表する企業が未来の生活を生み出す先端技術を競った。ところが21世紀となり、そのころ未来の技術の一つに数えられていた原発が大事故を起こすと、今度は企業がそれを廃炉にする=無に帰する技術を競い合っている。まだまだ準備段階と言ったほうが近いとはいえ、廃炉への一歩一歩を写真と図解でわかりやすく伝える本書は、まるで21世紀の負の万博のためのガイドブックのようにも読める。
 あれだけの大事故に「すごい」という形容を使うのは気が引けなくもない。しかし見方を変えれば、なにも生産しない技術を競い合う様は確かに「すごい(恐ろしい)」。篠山紀信の写真はそのすごさを、単なる記録とは違う次元で躊躇(ちゅうちょ)なく捉えている。
    ◇
 しのやま・きしん 40年生まれ。写真家▽きむら・しゅん 81年生まれ。「日経コンストラクション」記者。

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