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百貨店の展覧会―昭和のみせもの1945−1988 [著]志賀健二郎

[評者]サンキュータツオ(お笑い芸人、日本語学者)

[掲載]2018年04月21日

[ジャンル]社会

表紙画像

■ワクワクに出会う偶然を提供

 百貨店の催事に関する論文を楽しく読んだことがあったので本書を手に取った。著者は小田急百貨店で文化催事を担当していた方で、のちに美術館の館長なども務めた。百貨店の展覧会でどのようなことが行われてきたのか、それが美術館の催事のようにきちんとデータベース化されていないという事実に気付いた著者は、百貨店の枠を超え、それぞれの百貨店がどういう時期にどんな展覧会を開いていたかを記述し、一覧化していく。こうしてトレンドが見えてくる。さながら「百貨店の展覧会」という企画展を楽しむように読んだ。
 美術館などでは紹介されない、画壇の主流からはずれた作家の展示会。写真や漫画などはアートと位置付けられる前から展示を行っていたこと。影絵の藤城清治や、ちぎり絵でも有名な山下清といった人々も扱う。50年代には未知なる場所であった奄美大島や華厳の瀧、のちには南極探検、ヒマラヤ、ネパールといった研究の対象となる地も紹介し、大学や研究機関の科学コミュニケーションの場ともなった。日本人の好奇心が地表を覆いつくしていく様も見て取れる。花嫁修業全盛から「いけばな展」、脱美術展の時期からは文学展、宣伝美術の啓蒙(けいもう)期からは様々なデザイン展まで。
 「昭和のみせもの 1945—1988」という副題は、こうした展覧会がまさに興行であることを象徴している。展覧会目的でその場を訪れる人もいたかと思うが、百貨店という場での展示は、雑多な商品を扱い異なる目的で集まった人たちの目に触れるもの。そこにこれからの需要を喚起したり、好奇心を広げてもらう展示をする。いわば「事故」としてワクワクするものに出会えるセレンディピティを提供するのが百貨店の展覧会だ。現場の人でもあった著者の、百貨店の広告から戦略を見抜く行間読みも説得力がある。文化とは何か、自問自答する姿勢に学ぶところも多い。
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 しが・けんじろう 50年生まれ。小田急百貨店などを経て、渋谷ファッション&アート専門学校校長。

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