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エレクトリック・ギター革命史 [著]B・トリンスキー、A・D・ペルナ

[評者]椹木野衣 (美術評論家)

[掲載]2018年04月28日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能

表紙画像

■アウトサイダーが育んだ音色

 中学生の頃、フォーク・ギターからエレクトリック・ギターに持ち替えた時、あっと驚いてしまった。これが同じギターなのか。音が手元ではなく目の前のアンプから出ている。比べものにならないほど音が大きいうえ、音質も全然違う。見た目も似ても似つかない。でも、恐ろしくかっこいい。そこにまさか「革命」と呼べるほどの価値観の刷新と技術革新があったとは。想像もつかなかった。
 20世紀になって音楽が民衆に向かい、都市の喧騒(けんそう)下で奏でられるようになると、ギターは致命的な欠陥を露呈した。他の楽器に比べて音が小さすぎるのだ。そんな不満がエレクトリック・ギターの登場を促した。
 だから本書で真っ先に取り上げられるのは、演奏家というより発明家だ。名はジョージ・ビーチャム。電気そのものの広範囲にわたる普及を前提に、真空管アンプと紙製のスピーカーを組み合わせることで生まれたラジオに着目し「無線の電波の増幅が可能ならば」「振動波の増幅だって可能じゃないか?」と考えたのだ。伝統的な楽器にそんな発想は皆無だった。
 もはや工芸品ではない。エレクトリック・ギターは自動車のような工業製品になった。そして音楽の響きを根本から変えてしまった。中学生の私の驚きは、音楽をめぐるこの転覆を一瞬で体験したからだった。
 あとには演奏家が続いたが、全く新しい楽器だから教則本もない。本書でひときわ重んじられているジミ・ヘンドリックスとエドワード・ヴァン・ヘイレンが、優れているというより掟(おきて)破りで発明家を思わせるのは、エレクトリック・ギターの成り立ちの本質を突いている。
 著者の言うとおり、エレクトリック・ギターは因習を打破するアウトサイダーの手で育まれてきた。アカデミズムとは真逆(まぎゃく)だ。しかしだからこそ「聴き手の心の深部に触れるための道を開き、時に人生をも左右する」力を持つのだろう。
    ◇
 Brad Tolinski 米国のギター専門誌の元編集長▽Alan Di Perna 米国の音楽ライター。

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