書評・最新書評

柳宗悦 「無対辞」の思想 [著]松竹洸哉

[評者]佐伯一麦 (作家)

[掲載]2018年05月05日

[ジャンル]人文

表紙画像

 ■民藝を言葉にすることと格闘

 折に触れ、東京都目黒区駒場の日本民藝(みんげい)館や岡山県の倉敷民藝館に足を運ぶ。わずかながら、民藝店でもとめた気に入りの酒器や茶器に、生活にぬくみをもらってもいる(7年前の地震で割れてしまった物もあり、金継ぎしなければと思いながらそのままとなっている)。そうしたなかで、民藝運動を提唱した柳宗悦(やなぎむねよし)の言葉に接してきた。
 とはいえ、『工藝の道』などに見られる「下手ものの美」「用の美」「直観」「他力道」といった独自な言葉の出所がいま一つわからないという思いも正直なところ抱き続けてきた。陶工である著者が、熊本の雑誌『道標』に7年にわたって連載した「柳宗悦ノート」を下敷きに、その生涯と思想を丹念に詳述した本書を読んで、近代と相反した文字なき美の世界である民藝を言葉にすることと格闘した全体像がいくぶんかつかめた思いとなった。
 李朝白磁に代表される朝鮮芸術の美が民藝論に大きな影響を与えたことはつとに知られているが、それに対して、1960年代から70年代にかけて金達寿(キムダルス)や金芝河(キムジハ)などの言論人による柳宗悦批判が起こり、日本でも、支配下にあった朝鮮の人々への理解や配慮に欠けていたとする批判が出た。著者は、朝鮮半島に渡って朝鮮陶芸の研究をしていた浅川伯教(のりたか)、巧兄弟の手引きもあって朝鮮の人々とよく交わり、日本の植民地支配に対する批判を持ち、三・一独立運動を支持した宗悦の姿を克明に描き出して反証している。
 表題にある「無対辞」とは遺稿にもある言葉で、二元論を超えて人間身体に「一」なるもの=神(仏)が所在するという思想であり、その例を宗悦は、因幡の妙好人源左、異端宣告を受けた中世の神秘主義思想家エックハルト、ネオプラトニズムの創始者プロティノスに見いだしていた。さらに著者は、水俣病すらも「のさり(天からの授かり物)」として受け止めた被害者をそこに加える。
    ◇
 まつたけ・こうや 46年生まれ。陶工。熊本県菊池市に窯をかまえる。陶磁器に関わる論文・エッセーがある。

関連記事

ページトップへ戻る