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中国古代史研究の最前線 [著]佐藤信弥

[評者]出口治明(立命館アジア太平洋大学学長)

[掲載]2018年05月05日

[ジャンル]歴史

表紙画像

■甲骨文や兵馬俑の新事実に驚き

 序章でノックアウトされた。僕は、甲骨文発見の経緯は、清朝末期の役人、王懿栄(おういえい)が北京でマラリア治療のため龍骨(りゅうこつ)と呼ばれる漢方薬を買い求めたところ文字らしきものが刻まれているのに気付き、それがきっかけで殷墟(いんきょ)が発見されたと信じてきた。しかし、実は、骨董(こっとう)商が北京で甲骨を売り歩いており王懿栄がそれを入手したという。本書は、近年の出土文献や最新の研究成果をもとに中国古代史の実像に迫ったものである。
 本書は夏から秦までの約2千年をカバーするが、各章とも目からうろこが落ちる。例えば、兵馬俑(へいばよう)は一般には殉葬者の代わりとして理解されてきたが、そうではなく始皇帝が滅ぼした東方六国の霊魂による反撃を恐れたのでそれを防衛し威圧するために作られた、という説がある。つまり、殉葬者ではなく鎮墓獣の代わりというわけだ。
 また、兵法で有名な孫子が孫武と孫ピンの2人から成ることは1970年代に発掘された竹簡により確証が得られた。竹簡とは、竹を細い短冊状に切って文字を1行ずつ書いたもので、竹簡発見の歴史は漢代にまでさかのぼり、中国では古い時代から新たな出土文献が触媒となって学術を発展させてきたと本書は指摘する。
 著者は、個々のトピックの紹介にとどまらず、骨太な学問の方法論をも俎上(そじょう)に載せる。出土文献と『史記』や『三国志』などの伝世文献(漢籍)をどう取り扱うか、歴史学と考古学はどのような関係に立つべきか、また、2000年に公表された中国の国家プロジェクトである夏商周断代工程(古代の年代画定の試み)の取り扱いなど興味が尽きない。古代中国を舞台にしたコミック「封神演義」や「キングダム」により、この時代は若い世代にも人気だ。しかし、その最新の研究成果は教科書にも反映されず古い常識がまかり通っている。著者の嘆息が聞こえてくるようだ。しかし、こうした事情は日本史や西洋史も全く同じではないか。
     ◇
 さとう・しんや 76年生まれ。立命館大東洋文字文化研究所客員研究員。著書に『周—理想化された古代王朝』。

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