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トマト缶の黒い真実 [著]ジャン=バティスト・マレ

[評者]寺尾紗穂(音楽家・エッセイスト)

[掲載]2018年05月05日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■衝撃的なグローバル経済の実態

 タイトルを見て「買ってはいけない」系の話かと思ったらまったく違った。本書が描くのはトマト缶業界で台頭してきた中国企業である。「イタリア産」の缶詰も、加工地がイタリアであり、中身は中国から運ばれているものが多い。産地偽装でよく聞く話ではある。
 中国の場合、トマトの主要な産地・新疆は、反革命犯や政治犯を「改造」するために労働をさせる「労働改造」の一大拠点でもあった。著者は2013年にこの制度が廃止された後も多くの収容者がトマトの収穫作業を強いられているという証言を新疆で引き出している。私たちはどこかで、反体制の知識人を含む人々がもいだトマトを食べているかもしれないのだ。
 本書はグローバル経済の実態を示す一冊でもある。フランスのトマト加工企業が中国企業に買収された時点での、地元産トマトを使うという約束は反古(ほご)にされ、中国から濃縮トマトが運ばれる。地域の生産者の多くは転職を余儀なくされるが「フランス産プロヴァンス風トマトソース」は欧州のスーパーに並び続ける。
 最も衝撃的な場面は、ガーナにある中国企業のトマト缶加工工場で、著者が人目をしのんで原料の入ったドラム缶に手を突っ込み、その黒さを目の当たりにするところだ。酸化し変色した濃縮トマト(ブラックインクと呼ばれる)はアフリカで薄められ、着色される。ブラックインク再加工の現場をおさえた著者の執念は相当なものだが、そうしたセンセーショナルな部分だけでなく、末端で働く人々の生活現場まで取材し、声を拾っているところに本書の意味はある。
 「奴隷制度がいかに自由主義とかかわりが深いか」という認識のもと書かれた本書は、市井の人々にこそ広く読まれてほしい。たとえばTPPを推進した人々の間ではすでにそんなこと暗黙の了解なのだろうから。
     ◇
 Jean−Baptiste Malet ジャーナリスト。アマゾンの配送センターに潜入取材した前著がベストセラー。

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