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「投壜通信」の詩人たち―〈詩の危機〉からホロコーストへ [著]細見和之

[評者]齋藤純一(早大教授)

[掲載]2018年05月05日

[ジャンル]文芸

表紙画像

 「叫び声をひとつあげて 無用の者です、荒れすさんだ者ですと 君たちはあいさつしているのか」
 餓(う)えと襲来した寒波のなかワルシャワ・ゲットーの路上に倒れていく同胞たちの姿を描いた詩の一節である。作者は、ベラルーシ生まれのユダヤ人、イツハク・カツェネルソン。彼の代表的な作品の一つは、壜(びん)に詰められ、ある収容所の地中に遺(のこ)された。
 詩を「美」(仮象)というよりも「真」(現実)との関わりにおいて考察する本書は、災厄のただなかで書かれた詩の解釈においてとりわけ精彩を放つ。
 ポール・ヴァレリーやT・S・エリオットが反ユダヤ主義の思潮に染まっていたという指摘は貴重だし、パウル・ツェランの「死のフーガ」についての分析も徹底している。が、それにもまして印象的なのは、寒い家で「家のなかは寒い」と事態を言葉にすることをめぐる考察である。災厄の日々を詩人たちはどう描いてきたか。関心を引かれる。

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