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ザビエルの夢を紡ぐ―近代宣教師たちの日本語文学 [著]郭南燕

[評者]サンキュータツオ(お笑い芸人、日本語学者)

[掲載]2018年05月12日

[ジャンル]歴史 人文

表紙画像

■母語話者にない「最上のわざ」

 四百年以上前にザビエルの蒔(ま)いた種が、明治初期に来日したヴィリオン神父の時代になって芽を出し、昭和初期にカンドウ神父にいたって花を咲かせ、その後ホイヴェルス神父の時代には立派に根を張った。二〇一一年に亡くなった「酒場神父」ネラン神父は、型破りな発想と言語表現が多くの人たちに影響を与え続けている。
 文学とはなにも小説だけを指すものではない。たとえば寺社などの縁起(由来)に関する資料などは、これまで日本文学研究のなかでは「周辺」的資料とされてきたが、日本語と日本文学の輪郭をつかむためには欠かせないものと認識されはじめている。同様に、日本語非母語話者による日本語、たとえば外国人宣教師たちによる日本語もまた周辺的な資料と思われてきたが、本書はれっきとした文学として価値を見出す。
 近現代日本で、宣教師たちが出版した書籍はおよそ三〇〇〇点もあるそうだ。さらに作品として残されたものだけではなく、日本語で書かれた手紙、日本語で話された講演といったものも貴重な資料になる。そこで本書は冒頭に紹介した、各時代を代表する宣教師たちの足跡をたどりながら、彼らの残した日本語表現を紹介し、さらにそれが後年多くの日本人作家に影響を与えた「日本語文学」であることを例証していく。
 ホイヴェルスの「年をとるすべ」に収められた「この世の最上のわざは何?/楽しい心で年をとり、/働きたいけれども休み、/しゃべりたいけれども黙り、/失望しそうなときに希望し、/従順に、平静に、おのれの十字架をになう。」という一節は、こうした日本文学の蓄積の上にある。「この世の最上のわざ」という表現は、いかにも母語話者にはない発想で「最高の技」でも「生きる知恵」でもないところもいい。
 潜伏キリシタン関連遺産が世界遺産登録される見込みだ。彼らの遺(のこ)した日本語にも注目されたい。
    ◇
 かく・なんえん 62年、中国・上海生まれ。日本語文学者。著書に『志賀直哉で「世界文学」を読み解く』など。

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