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誤解された大統領―フーヴァーと総合安全保障構想 [著]井口治夫

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2018年05月12日

[ジャンル]歴史 政治

表紙画像

■ニューディールの先鞭と評価

 アメリカの第31代大統領ハーバート・C・フーヴァーの業績を再評価する書である。任期は1929年から33年までのわずか1期だが、その間世界恐慌に出合い、適切な政策を採らなかったと無能呼ばわりされてきた。が、はたしてそうか。
 シカゴ大学で歴史を学んだ著者は、第1次大戦から第2次大戦開始時までの期間、フーヴァーの「総合安全保障的世界観」で進められた「人間の安全保障」などについて学問的な分析を試みた。実際にフーヴァーの評伝と彼の周辺を描くことで20世紀のアメリカ政治史が語られていく。日本との外交関係、そして資源獲得に焦る日本の秩序破壊にアメリカがいかに対応したかも副次的に語られる。
 著者の分析が従来の研究を押さえた内容なので説得力をもつ。たとえばフーヴァーは両親を早くに亡くし、伯父の援助で大学を卒業して実業に携わる。クエーカー教徒でもあったためか、その後、人道支援活動にとりくむ。その仕事ぶりが認められての政界入りだ。第2次大戦以前、フーヴァーはベルギーへの人道支援をし、共産主義には批判的だがソ連や欧州への食糧支援を続けている。ソ連や欧州では約2千万人を餓死や疫病から救ったという。
 共和党から推され大統領選に出馬して当選する。折からの不況が大恐慌に発展するのだが、フーヴァーは連邦政府の支出を平時にないほどの規模に拡大する。赤字財政となり、32年の大統領選挙では民主党ローズヴェルトに徹底批判されて大敗している。
 フーヴァーは大不況の原因は、第1次大戦終結後の戦争賠償と戦争債務に起因すると考えた。そこで関係国の1年間支払い凍結令などを発した。しかしそれが裏目にでたのである。
 著者は、フーヴァーの政権後半は復興金融公社の設立など積極財政を進めたとして、ニューディール政策の先鞭(せんべん)をつけたと評価する。そこが誤解されていると結論づけている。
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 いぐち・はるお 64年生まれ。関西学院大教授(国際関係史)。著書に『鮎川義介と経済的国際主義』など。

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