
[掲載]2009年6月6日朝刊be
■人気作家が選んだ捕物帖
いま出版界では、アンソロジーがちょっとしたブームだ。しかも、作家や識者など、第三者がセレクトした選集の人気が高い。「あの人はどんな作品を選んだのか」という興味から、既読作品でもついつい買ってしまう。ブームの火付け役は、宮部みゆき編集『松本清張傑作短篇(たんぺん)コレクション』(04年、文春文庫)あたりだろうか。
ミステリーと時代小説の両方のファンから愛され、読み継がれてきた『半七捕物帳』も、現代推理の人気作家2人の選により、新しい読者を獲得すべくよみがえった。
最初の作品が発表されたのは1917年。子どもや孫に江戸の思い出話をする高齢者もたくさんいた時代だ。本書も、元岡っ引きの半七老人が若い人に昔語りをする形で、江戸で起きた不可解な事件の謎解きが進む。話を聞く「私」は、半七のことを「隠れたるシャアロック・ホームズ」と評す。怪談話も、半七にかかれば、万事合理的な解決がなされるからだ。
12作を収録。巻末の北村・宮部の解説対談もうれしいおまけ。ただし、ネタばれ満載なので初めて読む人はくれぐれも本編より先に読まないようご注意を。(石塚知子)
■もっとはまりたい人へ 書店員のおすすめ
有隣堂横浜駅西口店(書籍課フロアマネージャー) 高樋純子さん
〈1〉奇譚 銭形平次 [著]野村胡堂
〈2〉明治開化 安吾捕物帖(とりものちょう) [著]坂口安吾
〈3〉東亰(とうけい)時代 [著]小木新造
紀伊国屋書店新宿南店(新刊担当) 竹田勇生さん
〈4〉代官の日常生活 [著]西沢淳男
〈5〉情けがからむ朱房の十手 [著]池波正太郎ほか
捕物帳と言えば、昭和生まれの人間なら真っ先に思い出すのは、神田明神下の銭形平次親分だろう。半七が捕物帳の元祖なら、平次はまさに王道。テレビ時代劇の印象が強いが、原作の平次には怪奇色や伝奇色の強い異色の短編がある。そんな9作品で編まれたのが〈1〉だ。
〈2〉は変わり種。「『不連続殺人事件』で知られる著者が推理にこだわって書いた作品。冒頭の『読者への口上』には驚かされます」と高樋さん。
この作品で事件を解決するのは非の打ちどころのない紳士探偵。それとは無関係に毎回、勝海舟が登場し、好き勝手なへっぽこ推理を、自称弟子の虎之助に語って聞かせる。推理がはずれても、「オレが現場に行っていれば」とずうずうしく居直る。海舟に「言い訳の仕方」を学びたい一冊だ。
江戸から明治に移り変わる混沌(こんとん)期。半七や海舟が生きた時代をもっと知るには〈3〉を。
たとえば、庶民の家庭ではどのような食事をしていたか。収録の「おかずの早見番付」によると、大関「目ざしいわし」、関脇「しじみじる」……。こんな細かいデータが満載。時代の息吹やにおいが伝わってくる。
一方、〈4〉は捕物帳や時代劇で何かと悪役にされがちな代官の実態を伝える学術書。「江戸期の中間管理職の悲哀が見え隠れして、小説のなかの代官を少し思いやる気持ちがもてる」と竹田さん。自由奔放でストレスのなさそうな坂口版勝海舟とは対極の、江戸の武士たちのもうひとつの姿が見える気がする。
〈5〉は現代作家による時代小説の傑作選。平岩弓枝、池波正太郎らに交じり、宮部みゆきさんはここにも登場する。
著者:岡本 綺堂
出版社:筑摩書房 価格:¥ 924
著者:野村 胡堂
出版社:PHP研究所 価格:¥ 720
著者:坂口 安吾
出版社:角川グループパブリッシング 価格:¥ 660
著者:小木 新造
出版社:講談社 価格:¥ 1,008
著者:西沢 淳男
出版社:講談社 価格:¥ 1,680
著者:池波 正太郎・宮部 みゆき・平岩 弓枝
出版社:PHP研究所 価格:¥ 700
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